18Q 3
 審判の笛の音が高らかに体育館内に響く。

「せいれーつ!」

 指示を受けて、両校の選手たちはそれぞれベンチを離れてコートに入る。

(思ったより大人しいな……)

 もう少し、殺気だっているものだと思ったが存外静かなのだなと日向は火神の背中を少々驚いて見送った。

 黒子も、日向と同じように火神をじっと見つめていた。
 しかしその矢先、黒子の行く手に緑間が立ちふさがる。

「お前と、本当にやることになるとはな。だが、ここまでだ。どんな弱小校や無名校でも、皆で力を合わせれば戦える――、そんな物は幻想なのだよ。それから――」

 緑間は、自分を読めない目でじっと見上げる黒子から視線を外すと、ベンチにひっそりと腰掛けている白美を一瞥した。

「自らの流儀を捨て惰性でバスケをする者に、勝機はない。せいぜい、慣れあっていることだ」

「……」

 緑間は、そう言って瞑目すると、カチャリと眼鏡を押し上げた。

「来い――お前らの選択が如何に愚かか教えてやろう」

 だが、鋭い眼差しで言った緑間を黒子は大きな瞳で見上げ、言う。

「人生の選択で何が正しいかなんて誰にもわかりませんし、そんな理由で選んだわけではないです。それに、2つ反論させて貰えば、橙野くんは緑間くんが思ってるような人じゃありません。それから、誠凛は決して弱くありません。――負けません、絶対」

「っ……」

 黒子の揺るがない言葉と眼差しに、緑間は忌々しいものでも見て不快であるかのように眉間に皺を寄せて目を細めた。


「誠凛が王者連続撃破の奇跡を起こすか、秀徳が順当に王者の椅子を護るか――」

 客席で、笠松が呟く。

「それでは予選Aブロック決勝、誠凛高校対秀徳高校の試合を始めます!」

「お願いします!!」

 各々が、頭をさげ、試合が開始される。

「さぁ、決戦だ――!」

 笠松はまるで試合に臨んでいる選手であるかのように、呟いた。



ティップオフまでの少しの時間。
 高尾が、火神を視界の隅に、緑間に尋ねた。

「アレ? 挨拶は黒子くんだけでいいのかよ? 火神は」

「必要ない。あんな情けない試合をする奴と、話すことなどないのだよ」

 緑間は、そう言って自らの背後にいるであろう火神に冷たい言葉をかける。
 無論、火神はそれが聞こえている。

「もし言いたいことがあるようなら、プレイで示せ」

 緑間からの挑発。
 だが火神は、軽く口端を吊り上げた好戦的な表情で緑間の方を向いて、にっと笑った。
 迫力は強く醸されているものの、日向が思ったとおり、どこか落ち着いている。
 しかし内に秘められたギラギラしたものは、今にも火神の内側から外に出ようとしていた。

「どうかんだぜ。思い出すたび、自分に腹がたってしょうがねえ。フラストレーション溜まりまくりだよ。だから……早くやろうぜ。全部闘争心に変えて、てめえを倒す為に溜めてたんだ。――もうこれ以上抑えらんねえよ!」

 強い口調でそう言って、眼をカッと開いた火神を前に、日向はハッと目を見開いた。
 黒子も薄らと驚いた様子を貌にだし、緑間は今一番に目を細めて、「なんだと?」と不快感と鋭さを明らかにする。

(そうそう、そんな調子だ……)

 白美だけが、火神の姿を見て小さく微笑んだ。


(force him to bow facedown)

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