17Q 3
――はじめてその眼を見た時、俺はさしたる興味も抱かなかった。
 ふーん、あっそ、で? その程度の認識すらない。
 楽しませてほしい、なーんて期待すら持ち合わせられないほど、俺の目は闇に向いていた。

 あの頃の俺にとって、コートは戦場――否、処刑場といったところか。
 そこで見つめ合ってしまったが最後、名の知れた猛者も、ひよひよした弱い奴も、誰彼かまわず俺に破壊される。
 俺にとっちゃあ、ただ悦楽を貪る暇つぶしの遊び場――、否、恐らくそれらの眼に出会った頃には、遊び場なんておちゃらけた物ですらなくなっていたように思うワケで。


 ひたすら、ひたすら壊し続けた。
 欲望の剥くままに――、絶望の、剥くままに。


 壊した相手の事は、正直、今でも九割以上が記憶にない。
 全く以って憶えていない。我ながらマジで身勝手だよなァ。

 勿論、逃げた相手の事も憶えてない。
 そもそも向き合ってすらいねぇんだ、が、奴等はそれはそれで正解だったな。
 もし逃げなければ、大方壊れていただろうから。

 ただ、俺と目を合わせたにも関わらず、生き残ったごくごく少数の連中。
 俺は、彼等の事だけは憶えていた。

――今思えば、地獄を耐え抜いたその中に、あの鋭い眼もあった。

 例えば津川。アイツとやった時の俺は、まだ手ぬるかったはずだ。
 とはいえ、俺が本気で潰しに掛かったにも関わらず、アイツは耐えた。
 で、また俺に挑みかかってきた。ビビりながらも、威勢よく。

――今度こそ、本当にお前の目を見て、お前の心を見て、お前と戦ってやる。例えそこに嘘があったとしても。

 俺は俺なりの、誠意を以て、連中とまた戦うと決めた。

 結果俺は勝った。嘘をついて。アイツを突き放して。
 でも、また、挑んでくるという。

 嗚呼、並みの精神力じゃねェ、と。関心した。俺は内心脱帽だった。
 でも確かに嬉しかった。んで、期待してる。

――またアイツと、サシで勝負することを。

 要するに、素直に、彼とやりあう事が楽しいんだ。
 潰すことがじゃない。勝つことが、じゃない。
 彼と、駆け引きをすることが、楽しい。
 例え、一方的なものであっても。

 そして、楽しみだ。

 このことは、今からの相手に対しても言えること。





 だからこそ。




(That's why I always lie)

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