dice5




「あーあ、なんか見てらんねぇなー」
「じゃあ見なきゃいいだろい」
「え、そういうこと言っちゃう?」

いつもくっついてた二人がどうやらケンカをしたらしい。
遠巻きに眺めていると、なんとも甘酸っぱい気配が漂っていた。
エースはアレとしても、コノエも大概だなとため息をついた。

「うちの可愛い弟君は、ありゃ一目惚れだろ」
「さあ、どうなのかねい」
「好きな相手が死ぬだなんだってのを聞いて、いてもたってもいられなくなった、ってか?かーわいいなー」

サッチの言葉を聞き流しながら、とっくに見えなくなったはずのエースをずっと見つめ続けているコノエの表情は、ここからでは見えなかった。

「エースのやつ、何であんなに腹立ったのかさえ分かってなさそうだな」
「……そんなに気になるなら教えてやったらどうだよい」
「えーっ、楽しみへっちゃう☆」
「うぜぇ」

視線の先ではようやく動き出したコノエは、律儀にも洗濯物を干し始める。
血気盛んな若いのが飽きもせずコノエを睨み続ける中、何も無かったかのように。
わざわざ言わなくてもいい事を言って、唯一と言ってもいい程分かりやすい味方を自ら遠ざけて。

「不器用なのかバカなのか単なる怖がりか…」
「全部だろー」

何にせよ困ったな。
頬杖をつきながら小さく息を吐く。
このままじゃ、もしかしたらあいつまた死のうとするんじゃないだろうか。
今まではエースがいたからいくらか気が紛れただろうに、これからは一人だ。

自分でなんとか出来るだけの体力も気力も、残ってはいないだろう。


***


「書類整理?」

眠そうな男、……マルコが洗濯中の俺に向かって問いかける。
書類整理なら会社員時代に何回もやってきている。

「できるかい?」
「多分、大丈夫だ」
「そうかい、じゃあそれが終わったら部屋にきてくれよい」
「あっ、ま、待って…」
「なんだよい」
「部屋って…どこなんだ?」

いきなりマルコの部屋にと言われても、どこなのか分からない。聞ける相手もいないから、ふと気付いて慌てて引き止めた。

「ああ…そうだったねい、悪かった。じゃあ一緒に行こう、オレも手伝うよい」
「いい、大丈夫だ。隊長に手伝わせたなんて、知れたらどんな目に合うか」

冗談目かして言ったのにマルコはなんの反応もしなかった。
反応しなかったが、マルコは無言で洗濯カゴから洗濯物を掴んで干し始める。

「マルコ、やめてくれ」

自分の手を止めてマルコに向き直る。
マルコは手を止めずに横目で俺を見て、困ったように笑った。

「何もせず待ってたらくたびれちまうよい」
「じゃあ、部屋の場所を教えてくれ、終わったら行く」
「いいよい、もう終わる。早く行くよい」

驚くほど早く綺麗に干された洗濯物を見つめる。
早すぎだろ。
いや、早く終わらそうと思えば出来たことを俺が長い時間をかけてやっていただけなのかもしれない。
やることがなくなると怖くなる。
マルコは歩き出しているのに、見えない恐怖に足元を掬われそうになって足を踏み出すことができない。
気持ちばかりが急いていく。
思わず背中を見つめると、先を行くマルコが足を止めて振り向いた。

「早く行くよい」

大人の、覚悟と責任の滲む笑顔。
黒い恐怖が嘘みたいに霧散する。一気に呼吸が楽になる。
隊長って、かっこいいな。
思わず浮かんだ感想に掬われた気になって、俺も歩き出した。




「いーのかよ、エース」
「……何が」
「このままじゃ、マルコに取られちまうぞ?」
「……、知るかよ、あんなヤツ」

今までの一部始終を不機嫌そうに、けど目も逸らさずじっと見つめていた、ってよりも睨んでたエースは、そう吐き捨ててこれまた不機嫌そうに去って行った。

「こっちもこっちで、不器用でバカで怖がりってか」





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