dice3




眠そうな男は言った。
もっとも海賊王に近い男の船だと。

この世に海賊がいることもそうだが、海賊王というおよそ一般人には知り得ない称号であったりだとか、海賊王に一番近いはずの男の船がまさかの帆船で海賊旗なるものを掲げている、なんともレトロなはずの男はレトロな服装に身を包んでいるものの全くの規格外な男だった。
なんだそのサイズ感。

「おめえか、ウチの船に潜り込んでいたってのは」

規格外のボスは不敵な笑みを浮かべながら俺を見る。
その問いに俺は頷いて答えた。

「気づいたらここにいたんだってなあ」

頷く。

「おめえ、一体どこから来たんだ」
「東京だ。池袋」

眠そうな男は、「トウキョウ?イケブクロ?」とオウム返しに呟いた。日本語を話しているのに池袋はともかく東京が分からないはずがないんだが。首都だぞ。
怪訝に思って顔を顰める。

「それはグランドラインかよい?」
「グランドライン?なんだそれは」
「てえことは、外の海出身か?」
「外の海?……まあ、極東の島ではあるが」

二人の顔がいよいよ強張る。
俺の話はそんなに理解できない話だろうか。

「ここ、日本だよな?」

俺のその問いに、二人は首を傾げた。

「ニホンって……どこの島だい」

俺はついに頭を抱えた。



***


死ぬつもりで飛び降りたら別世界に飛んでいた。

なんて。

昔夢見て、いつしか諦めた事が実現するとは誰が想像できただろうか。
人間死ぬ気になればなんでもできる。
ズレた感想を思い浮かべながら少し笑った。

「コノエー!!」

声の下方向に視線を向けると、エースが遠くからブンブンと手を振りながら満面の笑顔をこちらに向ける。
子犬のようなその姿に癒された気持ちになって俺も手を振り返す。

あれから、この船に置いてもらえることになった。殺されるのかと思っていた手前拍子抜けだったが、次の島まで、こうして雑用を手伝いながら毎日を過ごしている。
あの日に終わっていたはずなのに、なんでもないようなさり気なさで時間が過ぎて行くのはとても気持ちが悪かった。

夜のうちに海に飛び込もうか。

洗濯カゴを抱えながら死ぬことについて考えていると、体勢を整えているうちにエースが一瞬で目の前にいた。

「洗濯か?オレも手伝う」
「ええ?いいよ、俺の仕事だ」
「いいだろ、早く終わらせてオレに構えよ」
「ははは、自分のためか」
「おう、オレのためだ」

並んで歩きながら、ふとしたさり気なさで俺からカゴを奪って先に行くエースの背中を、心から笑って見ることが出来ない。
親交を深めたところで。
そもそも、初めて会ったあの日から、なぜこんなにも懐かれているのかわからない。
何かしただろうか。
俺は。エースに。

「コノエ!早く来いよ!」
「ああ、適当にやるなシワになる!」




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