dice2




しばらくまっててくれ。

変な頭の男がそう言い残してこの場を去った。
しかし、当然ながらこの突き刺す視線まではなくならない。

時間までは分からないが、太陽が傾いて来ていることを思うと、結構時間は経ったのかもしれない。

そろそろ尻が痛くなってきた。
ついでに言うなら腕も。

すると、急に騒がしくなった。
眠そうな男が戻って来たのかと思ったが、声のする方向は男が消えた方向とは真逆だった。

「こいつっす!」

ドタバタとした足音と共に、すぐ近くで声がした。幹部クラスのやつが戻ってでも来たのだろうか。厄介ごとが増えたような心持ちで地平線に視線を逃がす。
その正面に、誰かが立った。
視線を塞ぐ立ち方に自然と顔が上がる。

何か言うかと思ったが、男と目が合うと、何故か男は目を丸くして俺をまじまじと見つめていた。
その表情に面食らってしまって俺も男と視線を交わす。

少年から青年になった位の男だった。
黒い帽子を被っていて、この男もどうやら幹部クラスのようで。

じっと見つめていると、男は急に俺の前に片膝をつき肩を掴む。

「あんた、名前は!」
「……不条、近衛」
「コノエ?!コノエってのか!俺はエース!」
「そ、そうか」

男の、エースの勢いにとても戸惑った。
先程までの厳つい雰囲気は一気に弾け飛び、いきなり南国のような華やかさが乱れ飛ぶ。

しかし、今まではあえて名乗らず、そして名前も聞かないようにしていた手前、事故のような名乗りに少し目眩を覚える。
知られてしまった。そして、知ってしまった。あの眠そうな男は多分分かっていて聞かずにいてくれたのに。

「お前は怒らないのか」
「何をだ?」
「<オヤジの首を取りに来た>」
「なっ!!」
「他の人は、みんなそれで俺を監視してる」

「ウソだ!!」

エースは急に立ち上がって叫んだ。
叫ぶとは思っていなかったのでその様子に瞠目した。

「なんで嘘だって思うんだ」
「コノエがそんな事するはずねえ!」

エースの信頼はここに来て少し嬉しかった。

「会ったばかりでなぜそう言い切れるんだ」
「てめえ、やっと認めやがったな!」
「さっきマルコ隊長に言った事は全部嘘だったのか!ふざけやがって!」

俺を監視していた人達が騒ぎ始める。
エースの行動が予想外すぎたから離れるためのきっかけを作っていただけなのだが。

「おい、何を騒いでるんだよい」
「マルコ隊長!こいつ認めましたよ!」
「やっぱオヤジの首を取りに来たんだ!」
「マルコ隊長にもダマし入れやがって!」
「うるせえ!」

エースが一喝すると静まり返る周囲を見渡した。

「コノエはそんな事しねぇ!」

エースの無闇な信頼が重く感じて顔を顰めて伏せた。

「お前のへんな信頼はともかく、…ま、オレもそう思うよい。こいつは嘘はついてねぇ。おい、あんた、」
「コノエだ!」

何故かエースに紹介されてしまった。
眠そうな男はエースの俺紹介にしばし動きを止めた後小さくため息をついて俺を見た。

「コノエ、ついて来い。オヤジが会いたいそうだ」
「あんたんとこのボスか?」
「ああ、そうだ。白ひげ海賊団の船長が直々にな」

今度は俺が動きを止める番だった。
今、何を言った?

「……なんだって?」
「何がだよい」
「海賊…?」

眠そうな男は瞠目して俺を見つめた。
正気か?とでも言いたそうな顔だった。

「まさか、気づいてなかったのかよい?」

眠そうな男は驚いたその顔のまま、続けてこう言った。

「もっとも海賊王に近い男の船だってことに」




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