明日に賭ける




「みんな来てるって本当か!?」


聖地マリージョア。
良くわからないが七武海との会合はいつもマリージョアで行われるので、今回もみんなが集まってるという話を聞いて期間中の船から一人飛んできた。
なんでかものすごく引き留められたけどなんでなのかは分からない。


「ジュール…!?」
「あんた……なんでここに来たんだい」

みんながものすごく驚いた顔をしたので悪戯が成功した気分になって笑う。

「へへ、任務から期間中にさ、部下が話してるの聞いちゃったんだ。七武海がマリージョアに集まってるって!久しぶりに会いたくて飛んできたんだよ。久しぶりみんな!、と……えーと、女帝さん、は初めましてだな、ジュールです」

クマはもう人の心を残していないことは知っていたのでクマには近寄らずに、ピンクのもふもふめがけて走った。

「ドーフィー!」
「! フフッフフフ……えらくご機嫌じゃねぇかジュール。そんなにおれに会いたかったか?」
「いや、そう言っちゃうとまた変な感じになるから言わねぇけど、会いたかったのはお前ってよりもそのモフモフっつーか……」
「フフ、つれねぇな」

つれないと言いながらもドフィは俺の頭を撫でたり落ちないように支えてくれたり、なんにせよ引きはがすようなことはしなかった。ドフィは初めて会った時から俺の事を面白がって、俺のする色々な事を許してくれる。たまにおもちゃにされたりすることもあるけど、まあそれはそれだ。
いつもは緩い空気になるのになぜか空気は張りつめたままで、不思議になって周囲を見渡すと固い表情をしたままのおつるさんと目があった。

「……、会議中だよジュール。早く出ておいき」
「……なんか、ものすごい重要な話してた?」
「ああ、そうさ。いいから早く、」
「フフッフフ……なんだお前知らねぇのか? これから起こるものすごい事態を」

勿体付けながらもものすごく楽しそうな表情のドフィが、俺の顔を覗き込みながらそう言うので好奇心をそそられて聞き出そうと口を開きかけた。

「お寄し!! その子は関係ないよ、黙ってな」

いつになく怖いおつるさんに瞠目して動きを止めて見つめてしまうと、気まずそうに俺から視線を逸らした。冷や汗を、かいてた。何か、俺にとってもものすごく嫌なことが起こっているような胸騒ぎがして自然と脈拍が上がる。

「おいおい、そりゃあねぇだろう。ジュールにとっても他人事じゃねぇんだぜ……?」
「……何……? 一体、なんの……」
「知りたいか……?」
「おやめ!言うんじゃないよ!!」

おつるさんの静止も聞かずに俺はドフィから目を逸らさずに、視線だけで言葉の続きを強請った。
何が起きてるんだ。俺が、長期任務に出ている間に、一体何が。


「先日捕まえたポートガス・D・エースの公開処刑が決行されるのさ! もちろん白ひげはもう動き出してるぜ?つまり、白ひげvs海軍本部! どでかい戦争の始まりさ! どうだい、ウズいてくるだろ…!?」


先日捕まえたエース?
公開処刑?
白ひげと戦争?
何?一体ドフィは何を言ってるんだ?
エースが捕まった?白ひげの二番隊隊長だぞ、なんで俺の耳に入らない。
公開処刑?そんな話一度も。
待て、一体、何を言ってるんだ。

思わず、おつるさんを見る。
おつるさんは、まずいことになった、とでも言うように手で額を覆って俯いていた。
本当なのか。今の話、全部。


「エース、の……公開処刑って、……何?」
「……っ」

「みんな、知ってたのか……?」
「ジュール、これは、」

「!知って、たんだな。……知ってて、俺に黙ってたのか!!!」


変だとは思った。
"捜索"癖のある俺に長期任務なんて、今まで任せてもらえたことなかったから。
それに、帰還中の船から飛び立とうとした時の、部下たちのあの狼狽えよう。慌てた様子でなんとか引き留めようとしてたのは、こういう事だったのかと、今更。
本当に、今更。
ドフィから飛び降りておつるさんに駆け寄った。
少し申し訳なさそうな表情を上らせながらも、おつるさんは近づいた俺と視線を合わせる。


「いつだ」
「……言わないよ、あんたには。知ってどうするつもりだい」
「『いつだって聞いてんだよ!!!』」

「な、なんじゃあの者は…!これは、覇気か……!?」
「……」
「ケケケ……すげぇ"力"だ…」
「明日の午後3時だぜ、ジュール」
「ドフラミンゴ!」
「フッフッフ……この"力"にゃあ中々……フフフ!逆らえねぇなぁ」


明日の、午後3時。
こっそり逃がすにも時間がなさ過ぎた。護送船を狙うにも、もう細工ができる状況じゃない。
どうしたらいいんだ。エースを、助けたいのに。
本当に、今更。
面倒くさがって情報を耳に入れなかった事を、こんなにも恨んでる。
難しい事は他の人に任せればいいやとか、ビッグニュースは誰かが教えてくれるだろ、なんて適当にやってた事が、こんなにも最悪な事態を引き連れてくるなんて思わなかった。

助けに行くから、なんて。
一体どの口がほざいたんだ。
自分への怒りでどうにかなってしまいそうになりながら、俺は自分が入ってきた窓に向かって駆け出しながら能力を発動させる。



「お待ち、一体どこへ行くつもりだい!ジュール!」



おつるさんが必死に引き留める声が聞こえたが俺はもう振り返らなかった。



助けたいんだ。
どうしたらいいのかなんて分からなかったけど。
海軍が海賊を公開処刑から救い出すなんて、思いつく方法を確立の高そうな順番からひとつひとつ試していくしかなかった。

失敗、するかも。
失敗、したとしたらエースも、きっと俺も多分終わりだ。
ゾワリ、と気色の悪い感触が体中を這い回った。這い回ったが、首を振って弾き飛ばす。

もしも、俺がエースを救い出せたとしたら、きっと犠牲はゼロだろう。
せいぜい俺とエースが大怪我するくらいで、死人はきっと、出なくて。

白ひげと海軍が戦争をするなら、犠牲は数えきれないほど出るだろう。
白ひげ側にも、海軍側にも、数えきれないほどの犠牲が。

家族なんだ、と笑ってたエースが脳裏に蘇る。
俺だって、一歩間違えば無法者だったはずだ。たまたまガープじいが拾ってくれたから俺は海軍として、正義、として生活できているだけで、もしもたった一人だったとしたら。あの状況から考えれば俺が生きていくには犯罪者になるしかなかった。
そんな無法者が、家族なんだって屈託なく笑って、幸せそうに笑って、暮らせる場所。
白ひげは悪い噂もあまり聞かなかった。それどころか、"捜索"で行った島では、感謝している人たちも多かったんだ。できるなら、大好きなエースの居場所も守りたいんだ。初めての、俺の友達だから。
こんなこと、サカズキパパが聞いたら何て言うかな。
それを考えて笑う。
俺、殺されちゃうかもなあ。
それならせめて、エースを助けてからにしてほしい。
エースの未来と俺の命を諦めたわけじゃないけど、全ての可能性を考えられるだけ考えておかないと、不測の事態に対応できない気がして、想像なんてしたくないのに俺はサカズキパパに殺されるところを考えていた。

エースを助けて。
エースを逃がして。
俺はココ出ていくつもりはないから海軍に残るけど。
そしたら俺は。


その未来を想像したら吐きそうになった。


そうなるんだったら、最期にあいつのとこ、こっそり遊びに行けばよかったよ。
居場所なんて知らないから無理な話か。
生まれて始めてした他人との誓いだったのに。



守れそうにねぇや、シャンクス。



頬を伝った涙は、風に飛ばされて消えた。



End.


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2015/07/16 gauge.



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