11.15夢箱 れーくんの好きな人 書き下ろしサンプル


〔記憶喪失話前日譚〕

パタン、と寝室の扉が閉まる音で目が覚めた。

「……零? おかえりなさ……」

その気配は愛しい人のものだ。私は眠い目を瞬きながら体を起こした。しかし、扉を背に俯いて立ちすくむ彼の顔が見えない。真っ暗な窓の外はまだ深夜だとわかった。

「零……?」

その場から動こうとしない彼を不審に思い、もう一度名前を呼ぶ。すると、突然つかつかとこちらへ歩き出した彼はスーツのままベッドに乗り上げ、性急に唇を重ねてきた。

「んっ! ぁふ、んんぅ、」

絡ませられた舌はお酒の味はしない。彼は外で酔うことはしないから当たり前だ。今の彼はウイスキーを飲む必要なんか無いのだから。それなら、どうして? 彼の突然の行動の訳を必死に考える。

――ふと、僅かに血の味がした。その源を探るために彼の首に手を回し、引き寄せる。彼のキスに応えているように装いながら、舌で彼の口内を調べた。
頬の内側じゃない、なら殴られて切れた訳では無い。舌も、違う。寝起きの頭を必死に捻った。そしてふと、唇の感触が僅かに違うことに気が付いた。

「……っ」

傷口をいたわる様に舐めれば、彼の身体がびくりと震えた。失敗がばれた子供みたいだった。唇を強く噛んだのだろうか、それも血が滲むほどに。余程耐え難いことでもあったのかもしれない。

首に回していた手でそっと撫でるように彼の髪をすく。一滴も逃さないというように強く吸われ、唾液を飲み下された。ああ、たべられてしまう。それによって彼の気持ちが少しでも落ち着くなら良い。

「っは、ぁ」

唇が離れ、今度は首筋に埋められる。ちゅ、ぢゅう、と強く吸いつかれ、濃く痕がついたのがわかった。いくつもいくつも華を散らされる。その間に彼の選んだパジャマの前は強く拡げられて、ブチブチ、とボタンが取れた。

「んっ」

両胸を掬って顔を埋められる。そのまま右胸の内側にかぷりと甘噛みされて息が漏れた。肌に何度も唇を落とされてから、れ、と大きく拡げた舌で胸の頂を舐め上げられる。

「っあ、んぅ」

ぴく、と肩を揺らしたのが彼にも伝わったのだろう。反対の乳首も指先で転がしながら、食むように吸い付いてきた。それだけでゾクゾクと腰が揺れるようになっているのだから、私もこの数年で彼に調教されきっている。

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