11.15夢箱 松田と彼女 書き下ろしサンプル
*初えっちより後、二日目よしよし話より前の時系列
「今日は来ないで」 恋人との時間を取れそうだ、と浮いた気持ちで予定を聞けば、返ってきたのはそれだけの短いメッセージだった。いつもなら、よほどの用事でなければ了承が返ってきていたし、予定が入っているなど理由を示して断りをいれてくる。 どうも様子が違う、それだけはわかった。
「なんで来たの……」 玄関の扉を開け、俺を迎えたのは随分とやつれた姿の恋人だった。 化粧は崩れたままで、髪も乱れている。何よりも機嫌の悪そうな声。いつもより数段低く唸っていた。
「来ないでって言ったじゃん」
そう言いながら背を向けてリビングへと歩いていく。帰れと言われないということは、入っても良いということだろうか。
「体調悪いのか?」 「……そう」
短い返事を聞きながら後ろについていく。ふと、視線を落として見えたものにぎょっとした。
「おい、お前、血……!」 「……え、――っ」
振り向いて俺の視線を辿った彼女はすぐにしゃがみこんだ。白いスキニーを赤く汚しているのは恐らく、――経血だ。
「う、うぅ〜〜っ」
泣き始めた彼女に駆け寄る。抱き寄せればその場にへたりこみ、身体を預けてきた。
「だから来ないでって言ったのに……」 「……何か、あったのか」 「いろいろ、積み重ねでつらい」
今日ね、仕事でいっぱいミスしたの。一つ一つは大きくないんだけど、集中できなくて、怒る人なんていないけど申し訳なくて。財布忘れるしお昼ご飯食べ損ねるし、なんか全部うまくいかなくて、人と喋るのも疲れるから会いたくないって陣平に八つ当たりして、ほんともう最悪。
「生理きてたのにも気付かなくて、陣平に見られるなんてもうやだ……陣平にこんなみっともないところ見られたくなかった」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら途切れ途切れに言葉を紡いでいた。そのこめかみに唇を押し付けて、声をかける。
「……なあ、俺の余裕ないところ見たらお前はどう思う?」 「……? ……………………すき」 「だろ」 「かわいい」 「おい今何考えた」 「おしえない」 「ったく、まあだから、そういうこった。見られたくないとか思わなくていい。むしろそういう時に甘えられたらけっこうクる」 「私の痴態を見るために来たってこと?」 「それは俺なりに心配してんだよ。お前まともに動きたがらないだろ」 「ん〜〜……」 「キツいなら、甘えろ」 「ん……」
今のイントネーションはyesの意味だった。そう解釈して抱き上げる。
「まずは風呂だな」 「入るのめんどくさいって思ってたのよくわかったね」 「洗ってやるよ」 「よろしく〜」 「……抵抗するかと思った」 「そんな気力ない。甘えさせてくれるんでしょ?」 「そうだな」
脱衣所の床に降ろし、されるがままの彼女を脱がせていく。
「顔は自分でできるか?」 「ん"……」
非常に面倒、と言うような顔で頷いていた。化粧落としと洗顔をすませている傍で俺も服を脱ぎ、タオルを準備する。 きゅ、と水を止めてさ迷う手にタオルを渡した。
「トリートメントまでしてくれるの? やったー」
洗髪をすませてから毛先になじませて揉み込む。 俺と付き合い始めてから伸ばしているらしい髪は、背中の中ほどまでの長さがある。俺はその髪を指にくるくると絡ませて触れるのが好きで、彼女もそれを知っているようだった。だから、時折鋤いたり毛先を整えることはあっても、短く切り落としたりはしない。それに、俺もこいつの髪の手入れをするのが好きだった。 十分に揉み込んでなじませた髪をシャワーで洗い流す。軽く水気を絞って、タオルで頭上に巻き上げた。 次は身体だ。泡立てたスポンジを滑らせて洗っていく。
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