セフレとの関係を終わりにしたい1
思考もカラダもどろどろに溶かして、何度も絡み合った。もう、数えきれないほど。
「は、あ〜、めっちゃよかった……」 「うん、俺も、おかげさまで」
情事の匂いを色濃く纏ったまま二人でベッドに沈む。 私と彼は、いわゆるセフレだ。
この関係は高校生の時から続いている。 つまらない日常に飽き飽きしていた頃。セックスが気持ちいいらしい、と知った私たちはどちらからともなく誘い合い、身体を重ねた。 「痛いいたいいたいっ!! 馬鹿! 抜いて!」 「キッツいしあんまよくない」 「慣らさずに挿れるなばか!」 最初は、お互いに知識が無いものだからまあ酷いもので。ひいひいと泣きながら奴の背を叩いた。 「唾つけとけば大丈夫でしょ」と言った奴に散々喘がされて、もう一度繋がってからが、それはもう凄かった。 「やあっ、うそ、きもちいぃっ!」 「ぅあ、これやばっ……!」 もともと相性が良かったのか、私たちは擦り合う肌と粘膜を求め合い、快楽に溺れた。 そして、お互いに良い娯楽を見付けたとばかりにほぼ毎日励むようになった。 快楽のままに精を放ったあと、顔面蒼白になった彼は私をお風呂に連行してナカをかき出した。そういえば避妊具なんてしてなかったな、とやっとそのとき思い出した。快楽漬けの猿2匹だけど、中に出したら妊娠することくらいは知っていた。 焦る奴を前にちょっと笑って、ピル飲んでるから大丈夫だよと伝えた。そのまま仕返しのようにもう一戦始まったのは余談。 私の生理が重くて飲み始めたピルは、今では避妊とどちらが目的で飲んでいるのかわからない。少なくとも、私がピルを飲んでいると知ってからは奴はたまにゴムを付けなくなった。後で知ったけど性病予防とかもあるんだぞバカ。
そんな関係がズルズルと続いたまま、私たちは社会人になっていた。
「なんか……こう、ダメだよね」 「えっ今さら? 何度もやめとけって言ったじゃん」
昼下がりのカフェで親友に愚痴を溢す。 ダメだと感じたのは理由がある。私今まで彼氏できてない。言うまでもなく萩原というセフレがいたからだ。身体の相性はめちゃくちゃに良かったし。 せめて三十までには子供が欲しいし、そのためには逆算して結婚相手といつまでに出会わないといけないか━━まあ言うなれば昨日見たテレビに影響されてしまった。
「来年……25になったらガチで婚活始めようと思ってさ。相談所とか登録してみるつもり」 「なにそれ……」 「え?」
予想外のレスポンスに目を丸くする。 発したのは目の前の友人ではなかったようだ。「うわっ」とでも言いたそうな顔で私の後方を見ていた。視線を追って振り向く。
「げっ」 「婚活って……なんだよそれ! 俺じゃ駄目なわけ!?」 「……は?」
詰め寄られてのけぞる。信じられない言葉がセフレ本人から出てきて耳を疑った。
「萩原だって別に、私のこと好きじゃないでしょ?」 「いやそうだけどさ、それは君も同じじゃないの? あれ?」 「……っ」
地味に肯定されたくなかったなそこは。 「は? お前ら付き合ってなかったのか」って萩原の親友の松田が呟いてるけど、そう見えてたの?
「俺ら相性は良いだろ? このまま結婚して一緒になったら二人とも気持ちいいしハッピーじゃん。なんか不満?」 「はあ? 不満もなにも結婚とかありえないから! 萩原が私の友達つまみ食いしてんの知ってるんだからね!? 棒姉妹に萩原とのセックスの感想を報告されてんのよこっちは! ほんとサイッテー!そんな奴と結婚とかただの都合良いキープじゃない!」 「えっそれくらい君もしてるでしょ?」 「してないわよ!!」 「そうだったの!?」 「それに私は好きな人私を好きになってくれた人と円満に結婚したいの!」 「身体の相性が悪くても?」 「……っそれは! 追々確かめるとして!」 「なあ、それは俺も立候補できるか?」 「オイ松田ぁ!!」 「えっセフレの目の前で親友の穴兄弟志願はちょっと引くかな……でも……萩原に負けず劣らずめちゃめちゃイケメン……てかこっちの方が好みかも……?」 「決まりだな」 「はぁっ!? おいおいおいおい待てって! さらっとホテルに連れて行くなっ!」 「セフレのくせに私の行動にケチつけないでよ。てかセフレやめる。もう会わない、セックスもしない」 「なっ……」
セックスしないのところで絶句している。彼にとって何を一番重視していたかわかるなぁ。
「7年近くもたった一人に操を立ててた時点で、どう思ってたのかわかりそうなもんだがな」 「もしかして周りからバレバレだったりした?」 「わりと」 「えぇ〜……気付いてくれないの萩原だけかぁ……」 「なあ二人で何ヒソヒソ話してるんだよ!」 「じゃあ聞くけど、なんで他のセフレつくらないの? 他に相性が良い人見つければいいじゃん。私はキープとか嫌。」 「そりゃあそれはさあ……!」 「比較した結果一番相性が良かったのが私とかはナシで」 「エッ」 「はぁ……」 「ため息つかないで傷つく」 「セフレとか抜きにしてさ、私が松田くんと一緒にいるのが嫌とか、思ったりする? それはなんで?」 「それ、は、確かに嫌だけど……俺なんでこんなに引き留めたいんだ?」 「……」 「……わかんない! ねえ考え直して? 大事にするから!」 「具体的には?」 「えっ……気持ちよくします……」 「フウ……」 「やめろ手を繋いで歩き出すな!!」
後日 「松田ぁ? なんだよいきなり家に来いって………ちょっと何してるんだよ!?」 「おう早かったな。落ち着け落ち着け未遂だ全部」 「君も! 流されそうにならないで!?」 「『試してみるか?』って言われたらつい……キスくらいなら一興かなって」 「駄目!!」 「なんで? もうセフレですらないのに。デートすら連れてってくれなかったじゃん、たまに外に出たかと思えば『面白いラブホ見つけたから行こう!』だったし。松田くんは実に紳士的だったよ、ホテル行くぞとか言わないし」 「比較のハードルが低いな」 「待って何デート? デートしたの?」 「そうだよ、すっごく楽しかった」 「俺何も聞いてない!」 「なんで元セフレの許可がいるの……」 「だってデートって……俺らそういうの無かったじゃん」 「当たり前でしょ? セフレだったんだから行きたいなんて言えないよ。重い女とかマジ無理って言ってたじゃん」 「いつ!」 「先週!! なんなら高校生の時も言ってた!!」 「そりゃ一回寝ただけの子に彼女面されて他の子の連絡先消してとか出掛けないでって言われたら重いだろ?」 「一回寝ただけとか言える男とかむり」 「しかも盛大にブーメランって気付いてないぞこいつ」 「寝ただけどころか既に他人でしかない私を束縛するとかなんで?って感じ」 「君を他の奴に取られるとか嫌だから!」 「……これでこいつ無自覚だからな」 「自覚してもらえるとありがたいんだけどねぇ」 「てか家に連れ込んでる時点で紳士的も何もないじゃん! 下心しかないだろ!?」 「え……だって、ねえ?」 「……だよなぁ」 「そこ二人で勝手に分かり合わないで!!」 「松田くんそういうつもりなかったもんね」 「まぁあわよくばって気持ちはあったな。でも本気で奪うつもりなら萩原をここに呼んだりしてねぇな」 「じゃあ俺が来てなかったら……」 「そのときは遠慮なく」 「おい!!」 「それはまたそのときだよねぇ」 「だから駄目だって!!」 「本気で言わせてもらうとさ。元セフレなのに私の邪魔しないで。理由もないのに言いなりになりたくない」 「理由って……」 「私は普通に恋愛がしたいの」 「おい泣くな」 「……ここまで萩原が鈍くなったの、ホイホイ身体を許してた私にも責任の一端があると思ったら涙が……」 「……俺だったら泣かせねぇけど。でもお前は萩原がいいんだろ」 「……ん」 「こらこら抱き寄せるな優しく涙を拭うな内緒話するな!! ほら離れて!! 俺が慰めるから松田は帰って!!」 「俺の家だっつの、出てくのはお前だ」 「あーはいはい分かりましたよ! 帰ればいいんだろ!! ほら行こ!!」 「またね松田くん」 「じゃあな」 「また会うつもりにならないで!!」
「……私が松田くんとだけデートしたのが嫌だからってことで萩原とデートしたけど」 「うん」 「ひとしきり楽しんだと思ったら、最後に『じゃあどこのホテル行く?』はあり得ないと思う」 「………………………あっ」 「結局セフレじゃん。私もう萩原とはしないって言ったのに」 「いや違って、だっていつもの流れだとホテルしか思い付かなかったから……」 「あのね、『今日は楽しかったよ、ありがとう、チュッ』でいいの。お開きでいいの」 「」 「え、なにそんな赤くなってんの?」 「っは、あ、いやだって今……」 「…………えっ、だって今まで何百回とキスしてきたじゃん、今さら唇合わせたぐらいで何を童貞みたいな反応を……」 「いやほらキスってヤる前の雰囲気作りとか前戯のためにするものだったから、こんな、ふっつーに、あの、えっと……」 「……っじゃあ私帰るから!!」 「待って送ってく!! 松田のとこ行くなよ!!」 「協力者に報告ぐらいさせて!!」 「駄目!!」 戻る
|
|