昨日の今日でまたこの部屋に居るとか信じられる?
目を開けたら、今まさに自分も目覚めましたって感じの顔がすぐそばにあった。

「研二く……」
「なまえちゃ……」

びっくりして顔を引く。
と、いうか、ショタじゃない。

「萩原さん?」
「なまえさん?」

ベッドの隣にいたのは、大人の姿の方の萩原研二さんだった。
彼も同じことを思ったようで、似たような問い掛けが重なった。
え、いくつ? わあ同い年。

「今回はいっしょなんだね」
「前回は昨日だったんですけど……」
「え、君も? もしかしてそれ、子どもの俺……あ」

幼い子供と大人が『何を』したか気付いた……いや思い出したのだろう、すっと目をそらした。
つまり彼も、つい昨日幼い自分自身に目の前の人物が手を出したことを知っているというわけで……いやもちろん、私も幼い頃に目の前の彼に手を出されているわけだけど。
お互い、まだ記憶が新しいだけに気まずい。

「あー……あのさ、敬語やめない? タメなんだし」
「それもそう……だね。その姿だと歳上の印象が強くって」
「じゃあさっきみたいに研二くんって呼んで? それでバランスとれない?」
「いいね、じゃあ私も同じ感じで」

彼の提案で空気がゆるんだ。ほっと肩の力が抜ける。
しかし、先程から上への意識がそらせない。上というのはそう、件の天井の文字だ。この二人でこの部屋に居るということは、あの文字があるのだろう。
二人そろって、ちらちらと視線だけ上を向く。

「……確かめてみる?」
「……そうだね」

まあこの歳になったらキスくらいは軽いものだ。それに昨日だってこの課題をこなしたのだし。問題は……うん、ないはずだ。ロリショタじゃないからそっちの問題もない。自分に言い聞かせる。
ベッドの上に立ちあがり、二人で見上げる。今度はどちらも抱き上げる必要がない。


『セックスしないと出られない部屋』…………


「なんでハードルが上がってるのっ!?」

思わず叫んでしまった。だって仕方ないだろう、前は2回とも同じ課題だったのだから今回も、と普通は思う。

「……片方が子供だったから、難易度下げてたってことかなぁ」

彼が呟く。確かに子供とこの部屋に入れられて出るための課題が『これ』だったら、いろいろと詰んでいる。手を出したら人生終わるし出さなかったら部屋から出られない。

この部屋から出るために、隣にいる彼と寝る……?
ちらり、と伺った視線はばちりと交わり、慌ててそらす。

「……あのさ、」
「わ、私たち! この部屋のことまだ調べてないよね! 前と違って変わってることがあるかもしれない! 調べてみよ!」
「あ、うん」

声をかけられて肩が跳ねた。しよう、と言われる前に言葉を被せて、さっとベッドから降りる。


結局なんの成果も得られませんでした。
どこを叩いても壁の音は変わらないし、壁も床も継ぎ目らしきものはないし、ベッドの下にアイテムが隠してあるってこともなかったし、他の文字も見つけることはできなかった。無論パジャマだからポケットには何も入っていないし。外への連絡方法もない。いや、夢の中だからそんなことできないのだろうけど。
夢の中、と思う根拠も、今までそうだったからぐらいのものしかないけれど。
……あの、これは口に出さないようにしていたんだけど、『セックスしろ』というわりにベッド周辺にスキンやローションが見当たらないのはどういうことですか。あってほしかったというわけではないんだけど。

「……夢なら、待っていたら目が覚めるかな」

ベッド脇に背をもたれて、膝を抱えて座る。
隣の彼は片膝を立てて、もう片方の脚は伸ばして座っていた。随分とリラックスしてない? 気のせい?

「疲れてない? 一回考えるのやめてさ、おしゃべりしようよ」

スウェット姿なのに首をかしげるだけの動作がやけに決まっている。うわっ顔が良い。
それにしても彼はコミュニケーション能力が高い。昨日研二くんに話した内容と変わらないはずなのに、相槌も上手いし話すのが楽しい。それでいてちゃんと自分のことも話してくれるし。ああそうだった、彼は警察官だったなぁ。

彼の友人たちの話にくすくすと笑って、はっと思い出した。
昨日、私が研二くんとお喋りしたのは、相手の警戒を解かせて、自分を受け入れてもらって、課題をクリアすることに難色を示さないように、誘導するため……
ぱっと彼を見上げたら苦笑された。
頬が熱くなる。

「……気付いちゃったか」

あのときの萩原さんも同じ意図で私に優しくしていたらしい。そして今、目の前の彼も。

「そんなに嫌? 俺と、するの」
「嫌とか、そんな……だって、」
「だって、なに?」

どくどくと胸がやけにうるさい。

「処女なの!! 男性とそういうことしたこと無いの!!」
「へ?」
「お付き合いしてもキスしても『違う』って思っちゃって! それ以上に進んだことがないから怖いです! 以上!!」

きっと彼はそんなこと思ったこともないに違いない。……普通の人生を歩んできたのだろう。人並みに女の人を抱いたりして……
頭がくらくらする。

「俺は、キスはできなかったよ」
「……え?」
「好きって言ってくれる子もそれなりにいたけど、ガキの頃のファーストキスだけ忘れられなくて、セックスはしてもキスだけはできなかった」

自嘲するように彼が笑う。彼も、少し赤い気がする。

「俺たち、似てるのに正反対だね」
「っ、」

指の背で頬を撫でられて、ぴくりと肩が揺れる。
何か言わなきゃと口を開こうとしたとき、天井から、ひらり、と紙が落ちてきた。

『一時間課題が完遂されなかった場合、催淫効果が表れます。なお、時間経過とともに増強します』

…………さっきから体調がおかしいのはそういうこと??

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