知らないお兄さんと○○しないと出られない部屋1


目を覚ましたら真っ白な知らない部屋にいて、隅の方に頭を抱えているお兄さんの背中が見えた。

「……おにいさん、だぁれ?」

首をかしげて問い掛けると、ハッとしたようにこちらを振り向く。かきむしったのか肩につかないくらいの髪の毛がぐしゃぐしゃになっていた。
お兄さんはぱぱぱ、と髪と服を整えて、ベッドに座る私のもとに跪いた。

「こほん、……こんにちは、はじめまして、お嬢さん」

萩原さんというその人は、優しく垂れた目尻が印象的な格好いいお兄さんだった。




私と同じように、自室で眠りについたと思ったらいつの間にかこの部屋にいたのだという。
私が眠っているうちに部屋のなかを調べたという萩原さんは、いろいろなことを教えてくれた。
ベッド以外は何もないこと。扉らしきものもないこと。出られる方法はあるけど、そのためにはまずお互いのことを知らないといけないこと。方法についてはまだ教えられないこと。
萩原さんは色んな話をしてくれた。お仕事は警察官をしていること。親友のこと。騒がしい友人たちのこと。彼らと沢山馬鹿をやった思出話。はたまた近所にカフェができた、なんて他愛もない話まで。

「君のことも知りたいな」

萩原さんに促されて、私も色んな話をした。萩原さんは相槌が上手く、私の口はどんどん回った。
この前7才の誕生日のお祝いをしてもらったこと。プレゼントにもらったぬいぐるみが宝物だということ。友達が好きな人の話をしていたこと。猫を飼い始めたこと。甘いものが大好きだけど、1日1個までと決められていること。体育より勉強のほうが好きなこと。
思い付くままつらつらと。
萩原さんといると寂しさを感じないのでこの部屋から早く出たいなんて思うこともなく、ただただ時間が過ぎていった。

「……今何時なんだろう?」

ふと頭にわいた疑問は自然と口から溢れた。部屋には時計もない。

「……ここから出る方法を教えてあげる」

静かに言葉を発した萩原さんは、私を肩車して部屋の中央の天井を見せた。

『3回キスしないと出られない部屋』……
見知らぬ男とそんなことをしないなんて、と怖がらせてしまわないように。私がリラックスするまでは伝えることができなかったのだという。
それに、警察官(じゃなかったとしても普通の大人)が私ほど小さい小学生に手を出すのはいろいろと問題があるだろう。私知ってる、ロリコンっていうんだよね。ぶたばこいきだって友達が言ってた。
そうまでしてここから出るべきか、他の方法はないかって萩原さんが頭を悩ませているのは伝わってきた。

「いいよ、はぎわらさんなら」

わたし、だれにもいわないよ。ふたりだけのひみつだね。
萩原さんを安心させるために笑って見せる。

「これは夢だから、ファーストキスだと思わなくていいからね」

萩原さんはベッドに腰かけて、私を両手で抱え上げる。萩原さんの膝の上に、横向きにのせられた。
萩原さん格好いいからファーストキスでもいいよ、とは言えなかった。

「……ん」

ふわ、やわらかい。
私は目を開けていたので、萩原さんの長いまつげがよく見えた。

唇が離れて、指の背でほっぺたを撫でられる。少しくすぐったくてふふ、と笑った。頭の後ろに萩原さんの大きな手が回されて、今度は私も目をつむった。
さっきとは角度を変えて、また重なる。

ぽすり。
天井と、さらりとした髪を耳にかける萩原さんが見えた。私の身体はベッドの上。顔の横に手を付かれる。
さっきまで私のそれとくっついていた唇を、萩原さんがぺろりと舌なめずりする。
その光景にドキドキしている間に、また萩原さんの顔が近づいて。
熱くてしっとり濡れている、やわらかな萩原さんの感触が私に触れた。

そう思った瞬間、つむっていた目を開けたら自分の部屋だった。
朝日がカーテンの隙間から射し込んでいる。
当然、部屋には誰もいない。
指で触ってみたら、唇が少し湿っている気がした。

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