何度も何度も出陣を繰り返して、戦場に生きていればそれで良いと考えていた。
審神者が自室で泣いているのを見つけたのは、他の部隊の出陣の際だ。部屋のスクリーンに大きく映し出された戦場では、部隊の一人が中傷を受けていた。
部隊の成果を見つめる背中と、仮面の隙間から落ちる滴はあの日初期刀にすがって泣いていた審神者を思い出させた。
審神者の中でも一等の泣き虫だったこの審神者はそれを隠すために仮面をしていたが、刀剣が傷を負うたびに涙を流していればいつかは枯れてしまうのではないだろうか。
その姿をとても見ては居られず、部屋に押し入る。振り向いた審神者の頭を抱き寄せ、あの日のように背を撫でた。
――俺が戦場にいる間も、こいつは一人で泣いているのだろう。人知れず、唇を噛み締めて、仮面に隠しながら。
同田貫を戦場に向かわせるのは審神者だが、審神者を戦わせるのは政府だ。

「隠すな」

一人で泣く必要はない。この本丸にも刀剣は増えてきたのだから、誰かしらは控えておけるはずだ。

「その顔を晒せとは言わねぇ。嫌なら、俺を呼びゃあいい」

肩に審神者の目元を乗せてそう言えば、腕が背中に回された。

しばらくして、静かになったな、と同田貫が審神者の様子を伺うと、泣き疲れて寝てしまったようだった。
審神者の頭を肩に乗せたまま抱え、布団へ運ぶ。
審神者を横たえて、仮面を枕元へ置く。泣きはらした、審神者の素顔を見たとき――同田貫の胸の内に何かが沸き起こったような気がしたが、同田貫は首を傾げて、部屋を後にした。




陸奥守吉行は、この本丸の審神者の初期刀である。
初めて顔を合わせた初日は、まだ審神者は仮面をしていなかった。初陣で洗礼とばかりに傷を負った陸奥守を見た審神者は、手入れの最中に泣き続けた。
これが刀剣男士を使うことなのだと。戦わせ、傷を負わせ、時には折れて二度と戻りはしない。それでも、この道を歩み始めた審神者は後戻りはできない。せいぜい細かな采配や運営で上手く彼らを使うことしか。

審神者の泣き顔を初めて見た刀剣男士は陸奥守で、そしてしばらくは陸奥守だけが審神者の泣き顔を知っていた。
やがて審神者は仮面を着け始めた。まだ陸奥守含め三振りしかいなかった時だ。審神者の師の教えによって、審神者が造り上げた仮面。それは顔を隠すだけではなく、感情を抑制する性能を持っていた。
審神者が師の元に居た頃から審神者は泣き虫で、仮面を使うことは検討していたのだという。
怒りも悲しみも喜びも、仮面の下に押し込める。刀剣男士を使う審神者としての威厳のために。そうしているうちに彼らとの間には壁ができてしまいそうだ。仮面の内と外では、まるで別人のように振る舞うようになっていった。

陸奥守は、出陣のたびに泣く審神者の感情をどうにかして溶かせないかと考え始めた。帰還するたびに審神者は自室で涙を流しており、それを優しく慰めるのは陸奥守の役目だった。
そこへ現れたのが、審神者に反発を覚えていた同田貫正国。不器用ながらも審神者に向き合った彼は、陸奥守が審神者の手を放せるほど審神者の信頼を得ることになった。

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