朝チュン


第一部隊が日本号を連れ帰って、同時に私は緞刀で次郎太刀を手に入れて。どちらも悲願の入手だったため、秘蔵のお酒も全部引っ張り出しての宴会を行うのは当然のことだった。



素肌って気持ちいい。意識が浮上して一番に思ったのがそれだった。
目の前は真っ白、よく見てみれば広い胸板。頭の下には腕、腕枕をされている。胸板が近い。顔に近い。
いや、近いどころか、身体はぴったりとくっついている。すべすべと触れ合う素肌は表面積が広く、見なくても私よりずっと大きな身体であることがわかる。
その肢体から流れる長く乱れた黒髪は私のものじゃない。

「…………な、」
「ん"ぅ"ん」
「ひっ!」

もぞりと動いた身体に、驚きのあまり声をあげてしまう。

「………あ?」
「いずみ……あのさ………」

シーツを最低限たぐりよせて身体を隠す。和泉守はまだ寝惚け眼だ。
次の言葉を紡ごうと口を開く。

「まだ寝れんだろ……」
「ちょっ」

しかし布団の中に引きずり込まれてしまい、抱き込まれる前に抜け出した。

「本当にやっちゃったの!?」
「…………は?」

ようやく目を覚ました和泉守と、驚愕の表情で見つめあった。

「覚えて、ねえのか」

がくりと天をあおぐ。

「覚えて、っていずみは覚えてるの!? せめて合意、ていうかひに、あ」

まくし立てていた審神者が一息で青ざめる。

「中、なんか、……出て」
「………あ」

やっちまった、とばかりに和泉守が口元を押さえた。

「そう………よね………酔ってたんだから避妊なんか………そっか………」
ほろほろ泣き出す審神者に和泉守があわてふためく。

「おいおいおいおい、なにも泣くこたねえだろ……?」

泣くほどに和泉守との子どもが嫌だったのかと、和泉守は焦ったがしかし。

「だ、だって」
まだ審神者や刀剣男士の制度は出来上がったばかりだ。まだ数年と経っていない。この本丸もまだ駆け出しだ。周囲に知り合いの審神者も少なく、情報を共有することもままならない。

「刀剣男士との子供、なんて前例、聞いたことない……審神者、続けられ、っなくなるかも、しれない……っ」

しゃくりあげながらどうにか言葉を紡ぐ。
「そんなのやだ、わたし、まだここにいたい……」

それが本心だった。
その言葉を聴いた和泉守は、昨夜の自身がどれだけ浅はかだったか、後悔した。酔いに任せて手を出したのはこちらだ。

「悪かった」
審神者に膝をついて頭を垂れる。

「もとより責任は取る。だが、もし政府の役人どもに取られそうになったら、隠すことも辞さないつもりだ。そうなったら、本当にお前は本丸にいられなくなるってことだ。だから………今、刀解されても仕方ねぇことだと思っている」
「……?」

その言葉を聞いた審神者は何故か不思議そうな表情で顔をあげた。

「……そう、ならないように、いずみが私を守って……もし、何もかも大丈夫だったら、ずっと傍にいてよ」

ぽすり、和泉守の胸に寄りかかる。
「ああ、当然だ」






「え? 素面の刀剣たちがどうして審神者を和泉守に任せたかって? それは聞くだけ野暮ってもんじゃあないか。今日来たばかりのアタシらにだってバレバレだったよ、あんなんは」




実のところ、昨夜の和泉守はさほど酔ってなどいなかった。ぐだぐだに酔った審神者の介抱のために布団へ運んだのだった。しかし、審神者が口吸いなんてことをしてくるものだから辛抱たまらずに押し倒してしまった。

「……あんたは、誰にでもこんな風に触らせるのか」
「そうなのかなあ、どうなんだろうねえ?」

ふふふ、と笑って目を伏せる。酒のせいで、高揚した気分は口を軽くする。

「いずみが、誰でも、に入るならそれでもいいけど。……いずみらしくない」
審神者は指先で和泉守の首筋をなぞる。


「『俺に触られたかったんだろ?』くらい言ってみなよ」

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