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燭台切にお願いがあります、と前置きをして主は言った。
「私を抱きなさい」

素直に驚いた。主は若いけれどそういうことに対する興味は無いものだと思っていたし、そもそも僕ら刀剣に対する関心もさほど無いようだった。
主は淡々と任務をこなし、刀剣たちとはあからさまな拒絶はしないものの必要以上に関わらないスタイルの審神者だ。与えられた仕事を必要なだけ消化し、残りの時間は現世に帰り過ごす。場合によっては寝泊まりのできる仕事場、そういう認識で割り切っていることは本丸にいる刀剣の大半が気づいていた。

そんな審神者がなぜ、こんなことを言い出したのか。

「いきなりどうしたんだい?」
「端的に言うならば、興味が湧きました。それだけです」

興味。それは僕か、行為に対するものなのか。
「うーん、もう少し詳しく教えてくれないかな」
「私はまだ性交というものを経験したことがありません。……周囲の人間が、とても良いものだと語っていたのです。それを聞いて、もし、人を変えてしまうようなものならば私も知ってみたいと思ったのです」
「……なるほどね」

審神者の興味関心が自分に向いたものではないとわかり、少しばかり残念だった。

「じゃあ、どうして僕を選んだんだい?」
「慣れてそうだったからです。噂によれば手酷く女性を蹂躙し、己の欲だけを満たして痛みしか与えない男もいるとか。私は苦痛は好きではありません。女性に優しそうなのは誰か、と直感で決めました」
「ふうん……」
「初めに言ったように、これは命令ではなく、お願いです。あなたには拒否権があります」
「いや、断るなんてとんでもない! オーケー、喜んで引き受けるよ」
「それでは亥の刻、部屋で待っています」


灯りを消した室内。障子から淡く月の光が照らす、影が重なっている。
手袋を外した素の手を、一糸纏わぬ肌の上に滑らせる。時折あがる嬌声に、愉悦が滲む。


目を覚ますと、隣で寝ていたはずの主が着物を纏う後ろ姿が見えた。

「求めていた答えは見つかった?」
「……いえ」

着替えを終えた審神者は部屋から出て、障子を閉じる前に呟く。
「………案外、変わるものでもないのですね」





煮え切らない返事から、既に3ヶ月が経過した。審神者はあれから変わらず、任務をこなす。最近は夜戦が多く、本丸に泊まることも多くなっていた。

審神者は相変わらず刀剣と一定の距離を保っていて、あの一夜のことが話題に上ることもない。審神者から同じ事を頼まれた刀剣も、どうやらいないようだ。もちろんあっても口に出していないだけかもしれないが。

正直なところ、審神者から理由を聞いてすぐに快諾したのにはそこに理由があった。僕が断れば、他の刀剣の所へ行く可能性があったからだ。折角彼女の懐に入るチャンスを、みすみす他の男に渡せるものか。
しかしいざ交わった後、少しばかり気落ちした。僕には彼女の内側に影響を与えられなかった。まるで時間を無駄にしたとでも言うような背中が忘れられない。
その身体に快楽が染み付いて、何度も僕の所へ訪れるような未来を欠片でも期待していた。
癖になってしまったのは僕の方だった。

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