わかりました、協力します 2


恋人がいるとはっきり認識させて、そのうえで断る。
そのために花京院と話し合った結果、恋人っぽいことをひとつひとつ実践していくことになった。

「なまえ、おはよう」
「おはよ、行こっか」

恋人のふりそのいち、一緒に学校へ行く。
私の家まで迎えに来てくれた花京院の横へ並んだ。もちろん手は恋人繋ぎだ。

「もう少しこっちおいで」
「うん」

あいていた距離をうめるためぴったりとくっつく。出来るだけ恋人に甘えているように。

「昨日大丈夫だった?」

恋人のふりの話し合いをした後、花京院は自宅へ戻っている。その間に件の女の子が現れている可能性もあった。

「何もなかったよ。心配してくれるんだね、ありがとう」

そう言って私の頭を撫でる。とりあえず嬉しそうに顔を綻ばせておいた。
……花京院ってこういう言い方もするのか。私ももっとそれらしく見えるように見習おう。


時折視線を感じることもありながら、あっという間に昼休みになった。いつもはそれぞれ同性の友人と昼食にするが、今日からは二人で食べる。
立ち入り禁止の屋上へ上がって弁当を広げた。

「なまえ、それ一口くれないか」
「はい」

期間限定さくらんぼ味の紙パックジュースを差し出す。すんなりと花京院もそれを口にする。花京院とゲームをするときによくやっていたので何の抵抗も感じない。

「今のところどう?」
「あまり変化は無いよ。だけど何を見られてるかわからない。続けよう」
「うん」



それが起こったのは午後の時間だった。隣のクラスと合同でバスケの試合をしていた。
その中にあの女の子がいた。思い過ごしかもしれないが、受ける視線が私を狙っているように感じる。
その子のいるチームとの試合だ。嫌な予感しかしないが、参加しないわけにもいかない。足をかけられることくらいは覚悟しておこう。
花京院がこちらに心配そうな視線を送ってきているが、大丈夫だと手を振った。心配するくらいなら最初から頼むな。これくらいは予想の範囲内だ。
とはいえあまり前線に出ると警戒しづらくなる。パスを回す程度に試合に参加した。
それでもちらちらと花京院からの視線を感じる。ああもう、大丈夫だって。けして不快とか疎ましいわけではなく、人に気にかけられるというものはくすぐったい。
ほんの数秒、気が逸れていた。

「なまえちゃん危ない!」

クラスメイトの悲鳴が響く。はっとするがもう遅く、硬めのボールが頭を直撃した。

「なまえ!!」

思わずよろけてしゃがみこんでしまうが、痛みや衝撃はそれほど酷くはない。花京院が駆け寄ってくるけれど、別段試合を途中で抜けるほど強く当たったわけでも……

「保健室へ行こう。僕が付き添う」
「え、ちょっと」

クラスメイト達に見送られて足早に体育館を出る。私の手を引く花京院は一度も私を振り返らずに保健室へ着いた。

「大丈夫なんだけど……」
「いや駄目だ。……気付いていただろう、君はずっと狙われていた。あのまま続けていればどうなるかわからない」
「まぁ……」

花京院が保健室の先生に頼み、私はベッドを使わせてもらうことになった。そこまでするほどじゃないのに。

「早退させてもらうように言ってくる。荷物も持ってくるよ」

ほとんど押しきられる形で決められてしまった。
花京院が保健室を出ていくと、先生がカーテンの隙間から顔を覗かせる。

「優しい彼ね」

にこにこと微笑ましそうに言うものだから何も言えなくなってしまう。
ふりとはいえ、自分と花京院は今、彼氏彼女の関係なのだと改めて思い知らされるようだ。
……もし花京院が本当に恋人だったら、同じように気にかけてくれるのだろうか。それはそれで大変そうだな。
そんなことを考えながら、花京院が戻ってくるのを待った。

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