わかりました、協力します 3
恋人のふりを始めてから一週間だが、特に目立った動きはない。 新しくしたことといえば、花京院のことを名前で呼ぶようにした。放課後はどちらかの家に行くようになったし、休日はデートもした。カフェで甘いものを「あーん」とかやってみたりもした。これはそこそこ恥ずかしかった。 そういうことをするのに何も感じないというわけではない。今さらくっついたりすることに抵抗はないが、ポーズの一つだと思えばどうということはない。そろそろ、二人でゲームができる時間が減った気がしてつまらないが。
今日も花京院と共に帰路につく。繋ぐ手も近い距離も慣れたもので、自然と演じられるようになっていた。
「なまえ」
ふいに名前を呼ばれて、どうしたのと聞く前に抱きしめられた。人通りが少ないとはいえ公道の真ん中なのに。
「いるの?」 「近付いてきてる」
声を潜めて耳元で言葉を交わす。 周囲を確認したかったが不振に思われるかもしれない。とりあえず恋人同士のポーズとして花京院の背に腕を回しておいた。
「なまえ」
名前を呼ばれて近い距離はそのままに花京院の顔を見る。
「後で殴ってくれ」
え、ちょっと待って。花京院ってエムだったっけ。 口を開こうとしたが私は声を出せなかった。 10センチ程しかなかった距離はすぐに狭まり、私達の唇はぴったりとくっついていた。
「ん、」
これって、まさか、私のファーストキス! 一瞬だけそんなことが頭をよぎるが今は敵の目前。ここで花京院を突き飛ばしてしまえば今までの演技が水の泡になる。 いつの間にか花京院の瞼は閉じられていて私も倣って目を閉じる。そうすると今まで意識していなかった花京院の香りだとか、抱き寄せられる腕の力強さが、どうしても“男の人”なのだと途端に明確に感じられた。
柔らかい唇を楽しむように何度も触れ合わせ、角度を変えてみたりする。いつまで続けるのだろうと疑問を持ち始めたとき、花京院の舌が唇を舐めた。 うそ、そんなことまでしちゃうの? 思わずびくりと肩がはねるが、安心させるように花京院の手が背中を撫でた。仕方無く、経験のない私は花京院に委ねることにした。花京院の背中に回した腕を強く絡める。 口を薄く開ければ花京院の舌が侵入してくる。
「んぅ……ふ、……ぁ」
上顎を擦られて背がぞくりと震えた。出そうと思ってもいない甘い声が鼻から抜けていく。舌を絡めとられ、深く差し込まれてはかき回される。足に力が入らなくなり懸命にしがみついた。 口内を蹂躙しつくした花京院は唇を離す。すぐに私の顔を隠すようにその胸板に抱き込んだ。私にも自分がどんな顔をしているかわからないのでとても助かる。 戻る
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