short 2
「なまえも勿体ねぇよなぁ。よりによってあんなヤツ好きになっちまうなんてよォ」
「――ジョジョ」
他人に聞かれたくはない。声を小さくするようにたしなめるが、気にした様子もなく言葉を続ける。
「なんで言ってやらないんだ?」
「……言ったらいけないから」
女性を口説くことがまるで趣味のようなシーザー。 私とて彼に女性としての眼差しを向けられたことがある。それでも、私はそれを受け入れたことがなかった。
私はシーザーが好きだった。 しかし、彼の傍にいたせいでたくさんの女性を見て、その女性に熱烈アピールをする姿も嫌というほど見てきた。 うんざりすると同時に気付けたこともあった。 人は手に入らないものを欲しがり、手にいれると熱が冷めていくもの。 シーザーは望んだ女性をみな落としていた。 だから私は触れてくる優しい手を、向けられる熱い目を、甘い言葉を静かに流し続けた。 やはりシーザーの行動には心が満たされ、胸が高なる。 それでも心を押さえつけて、顔に出さないようにして日々を過ごした。 彼を受け入れれば、いずれ他の女の子に向けられる視線に我慢できなくなる日が来る。 その時は私も、今まで見てきた女性達のように彼の傍を離れていくのだろうか。
彼は歪んだ私とは違う。 彼はいつだってまっすぐだ。 毎日飽きもせず、ただし他の女の子を口説くことも忘れず、私を見続けた。
「シーザーの傍にいたいの」
ジョセフに言ったはずの声はどこか遠くに聞こえた。 戻る
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