short 柔らかな1


「危ないッ!!」
「うわっ、」

花京院がなまえの体に体当たりするようにして突き飛ばしたのは、遠くから放たれた弾丸がなまえに届く寸前だった。数発の銃痕が地面に残るのを見届ける暇もなく、すぐさま近くの建物の陰に逃げ込んだ。

「狙撃されたみたいだ」
「DIO……まさか殺し屋まで雇ってるなんて」

しかしこちらは二人とも遠距離攻撃を得意とするスタンドだ。狙撃手にとっては相手が悪かったとしか言えない。

「消し飛ばせ!クイック・シルバーッ!!」



狙撃手相手の戦闘に手こずることはなかった。しかしホテルへ戻ろうとする道の途中で他の刺客に何度も遭遇し、それらを倒しているうちに体力を削られていった。
ふらりとよろけたなまえがぶつかった壁にもたれ、先程から痛む足に無意識に手を這わせる。手にぬるりとした液体が絡み付いてなまえはようやく傷を負っていることに気づいた。

「花京院、はやくホテルに戻ろうか」

いつになく動き回ったせいで頭痛がする。なまえはもともと体が強い方ではなかった。本来ならこまめに休むか薬で体調を調えるのだが、その薬も運悪くきらしていた。
はぁ、と苦しげに息をつくと頭上から顔を覗き込まれた。

「怪我をしてるじゃないか。顔色も悪い」

壁だと思っていて寄りかかっていたのは花京院だったらしい。
よろけた体は花京院の腕に支えられていて、ごめん重いよねと呟いたつもりが声にはならなかった。


身を預けてきたなまえを支えようと肩に手を置いた花京院はその細さに戸惑っていた。触れたままでいるのを躊躇っているとなまえがぐらりと傾いで慌てて両腕で支える。受け止めた花京院の手のひらと胸からふにゃりとなまえの身体の感触が伝わり、反対に花京院の体は硬直した。
血の生臭さと共になまえの香りが鼻を掠めた。

あの承太郎の妹でも、攻撃性の高いスタンドを持っていても、なまえは“女の子”なのだとふとした瞬間に思いしらされる。
セーラー服一枚では、その下の細い線や柔らかな体は隠しきれず浮き彫りになる。余分な肉はついていないように見えるのに、指先に感じるのは骨の硬さよりもすべすべな柔肌だ。

――何を考えているんだ僕は!!

刺客から逃げるため走り続けていたなまえの肌はしっとりと汗ばんでいたが、その色は蒼白だ。
花京院は己を叱咤して気持ちを切り替えるとなまえを部屋で休ませるため腕に抱きかかえてホテルへ急いだ。

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