目を覚ますといつもの天井で、なんとなくほっとした気がする。
ああ、そういえば飲みすぎたのかもしれない。と少しだけ思った。20歳になって、酒で羽目を外すなんて早々になかったことだから、自覚してなかったけれど、自分の許容量を超える量を飲んだのは初めてかもしれない。そこまで考えて、笑って、額に大きな絆創膏がしてあることに気が付いた。



それで、思い出した。変な夢を見た。

「……」

居酒屋で、バイトの仲間から誘われて、酒を飲んでいた。といっても、たぶん家に帰れば夜食が待っているし、そんなにしっかり飲まなくてもいいかなって思った。ビールを飲んで、飲んで。場も和気藹藹としていたころに、隣にすごくきれいな女の人が座っていた。何度か瞬きして、にっこりと寂しげな笑みがこっちを向いて。それから少しだけ曖昧だ。

「わぁ、すごーい」
「あはは」
「ねぇ、わたし、寂しいんだぁ」
「え?」
「あのねぇ、楽しいことしよう?」

彼女がビールを注いでくれる。そのまま、くいと一杯。口を付けて、飲み干す。

「あなたは、私にくれる?」
「愛を私に頂戴?貴方の」

ゆるゆる。ふわふわ。

「大丈夫、大丈夫 立たないなんてないから」

ゆるゆる。
ふわふわ。ゆるゆる。
泡沫のように溶けていく理性と夢の境界。その淵でふと、よくわからないけれど、同居人のことが浮かんだ。考えていたら、簡単に口からするりと言葉が漏れた。


「あー、でも家で待ってる人がいるから、ごめん」

ゆるゆる。

「えー、彼女?うん、じゃあいいやー この人もらうからー私、修羅場嫌いなの」

彼女はバイトの先輩の腕をとる。

「いや、違うんだけど」
「えー、じゃあ片思い?それとも性別? 人間って厄介だよねぇ これ上げるよー、大丈夫。向こうも嫌だったら、反応しないから。あとやり方はねー」

ゆるゆると蠱惑の笑みで言葉を紡ぐ彼女は、ニコニコと深める。熱でもあるかのように、自分の頭が溶けていきそうだった。ぼやける視界で彼女の顔はわからなかったけれど、背中に何かが生えているのが分かった。ああ、そうか。そういう。

そこから、まだ熱は高くなる。前後不覚、正直あまり記憶もない。
眠たさとそれでいて性的な興奮も相まって、気持ちが悪いような気持がよいような妙な気分だった。ただ、家に帰って同居人を見た瞬間にすべてが噴出した。つまり、端的に言えば、興奮した。
大丈夫?と伺う手に、僕の背を擦る仕草に。

思えば最近。
家に早く帰りたいって思っていた。
居心地が良くて、幸せで。その中心にいたのが誰なのか。
そういうことなんだろう。

その夢で、なんというかこう無理やりに組み敷いてしまっていて、いざ本番ってあたりで冷静になったのだ。いやいや、よく考えて。これまずいから。
一気に罪悪感が噴出して、止めるためには…と考え付いた先で選んだ方法がこれ。
止められぬならば、気絶しようホトトギス。
壁に思いっきり頭をぶつけようと思い。そこのあたりから完全に記憶がない。



「…まず、謝らないと…」

頭が揺れる。視界が歪む。けれど、それも一過性のものですぐに収まった。
寝室の扉を開けて、今に出る。そんなに広い部屋じゃないから、すぐに分かった。

「…あれ?」

誰もいない。怒っているとかあると勝手に思っていたけれど、居間は誰もいなくて空っぽだ。手持ち無沙汰に膝抱えていたり、不貞腐れている彼はいない。
慌ててきょろきょろと見渡してみるけれど、どこにもいない。
そして、ふと机の上に朝食があった。いつ用意されたのかわからないけど、もう完全に冷め切っている。その中のマグカップの下に引かれるように、紙が1枚挟んであった。


【ごめん】


それだけ書いてあった。

失踪ホリデー



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