無言ホームナイト

蓋を閉じて、火を消す。時計を見ると丁度6時。土曜の日は朝から夕方の6時まで律はバイトだ。いつものように律を見送って、家の中を片付けて、文字の練習をして、律のご飯を作っていたら、時間は過ぎていく。この部屋にある映画はほとんどがホラー映画で見ていたら怖すぎて一人ではいられない。
律からすれば、こっちが幽霊とかを怖がるとはどういうことなのかって疑問になるらしい。よく考えてほしい、自分は生きていることが自分自身わかっている。だから、死んでる幽霊とか、恐ろしくて恐ろしくてたまらない。理性なんて、関係なく怖い。だから、やることはいつもとあまり変わらない。
だから、今日もいつものように律を待って、がちゃんという音と共に玄関の前に向かう。

(りつ―)

お疲れ様―と、声を掛けようとして、そのまま律に抱きしめられた。
目が点になる。
(え、えっと、律さん?)

律の頭を撫でてみるが、何の反応もない。だというのに、しっかりと腕は自分の腰に回っている。熱は、ない。どういうことなんだろう、と少しだけ反応に困る。

(律、律、ご飯だよ)
(律?)

律は何も答えてくれない。悲しいけれど、どうしようもないことに声帯というものが自分にはない。タブレットを取りに行きたかったけれど、それを律は許してくれないようにしっかりと抱きしめている。声を発することができれば、何か理由を聞くことができるんだろうか。ねぇ、律。どうしたの?

しばらく、頭を撫でていると、律がようやく口を開く。

「……しばらく、こうさせて」

うん、と小さくうなづくとそれが律にも伝わったのだろう。ご飯は食べる?とジェスチャーしてみると首が横に振られる。うん、わかったよ。そのまま律を連れて、ソファーまで行くとそのまま横に押し倒される。
まるで抱き枕になった気分だな、と少しだけ可笑しくなった。律のお姉さんが来ると自分はいつも律に抱き着いたりしているけど、これはいつもと逆だ。何かこうなるぐらい、怖いものでも見たのだろうか。

(律、)
(律、大丈夫?)

自由になった片手でポンポンと背中を叩いてみても、律は一言も漏らさない。ぽかぽかと律の体温に包まれているとすごく暖かい、幸せな気分になれる。
その気分を少しだけ分けようかと思って、背に手を伸ばす。

(お疲れ様)

無言ホームナイト



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