「おーイヤミじゃん!元気してる…てか、あの後勝てたー?」
「げッ、…おそ松。勝者の余裕って奴ザンスか」
「そんなわけないじゃん!まさか、イヤミが選んだ馬がUMAだったっていくら俺でもわかんなかったって!いやいや繰り上げで馬券が当たるなんて、俺もツいてたわー道端の神社で拝んで、お守り買って要らなかったからカラ松にやるぐらいには神に感謝したね」
「それが勝者の余裕って奴なんザンスよ!!…ったく、なんでこんな泡銭でしか消費しなさそうな奴に万馬券が当たるザンスかね」
「えー、日ごろの行いってやつ?」
「何処の口がそんな言葉言えるザンス…ミーにした数々の悪行を思い出すザンス!」
「…えっ、俺、ナニカしたっけ?」
「覚えてないザンスか…まぁ、良いザンス。今日はその分のツケが帰ってくるザンスよ!」
「へっ、今日はツキにツキまくってんだ!そんなことないっての!」




「えー、その話本当?」
「ホントホント、魔よけの鈴なんだって!」
「あんた、ほんとにスピリチャル的なもの好きだよねー、効果あるの?」
「うん、何でも聞いた話によるとね。この鈴を持っていると、自分を傷つけようとするものから遠ざけてくれるんだって!」
「傷つけるものって?」
「うーんと、とにかく傷つけるものだよ」
「アンタ、それってやばい宗教なんじゃない?もしくは、オカルトだよ!…トド松くんも興味なさそうだよ」
「うーん…でも、その鈴綺麗だね。魔よけはアレだけど、ストラップとかなら、おしゃれだよ」
「玉も入ってないんだって、だから煩くもならないしね。トド松くんにもあげる!」
「それ、鈴としてどうなのよ…」
「ありがと、大切にするね!」




「あれ、おそ松兄さん。どうしたの、この世の不幸背負った顔して」
「…ああ、チョロ松。…まさか、馬がペガサスだったなんてわかるわけないじゃん…マジありえねェ敗け方した…」
「…なに、よくわかんないんだけど、それがどうしたらパチンコ屋の前に来ることになるわけ」
「競馬の負け分をパチンコで回収しようと思って」
「って、何言ってんだよ。できるわけねぇだろ、現実を見ろ」
「いーいーやー!できる!俺にはできる!」
「その根拠のない自信はどこから来るんだよ!」
「んで、チョロ松は何で電気屋の袋持ってんの?」
「ああ、CD取りに行くついでにこの間兄さんたちが稲川淳二ごっこして切れた懐中電灯の電池を買ったんだけど……何、その手」
「お金貸して。三倍ぐらいにして返すから」
「はぁあああ?!ふざけんな、なんでだよ!」
「うっせぇ!このまんま負けっぱなしにできないだろ!どうせ、チョロ松もここにいるってことはコレだろ?一人も二人もかわんねぇって」
「変わるわ!…って、おい止めッ?!」







「やべぇ…」
「新記録だったんじゃない…一時間でこの金額って、兄さんの今日の運どうなってんの」
「はっはっは!やっぱりおれはツイてた!神は見捨ててなかった!昨日の競馬といい、サイコ―!!」
「は、昨日の競馬?」
「ふーん、昨日の競馬も結構勝ったんだ。で、どうするの?」
「そりゃあ?うまい酒でも…え」
「と…トド松いつから」
「うーん、さっき?おそ松兄さんとチョロ松兄さんがパチンコ屋から出てきたあたりだよ…まさか、隠すつもりじゃないよね」
「へぇ?!」
「だって、前に兄さんたちも僕の勝ちでお寿司食べたじゃん!兄弟皆平等…ってね!」
「ええぇ…お前たちに奢ったら俺の分無くなんじゃん!ぜってーやだね」
「へぇ、そんなこと言ってもいいんだ…」
「そうだよ、それにそもそも自分の金じゃないじゃん」
「ッだー!もうわかった!めんどくせぇ…ったく、今日はついてんだかついてないんだかわっかんねぇな…」
「やった!じゃ、昨日の競馬分も込みってことはケッコー豪華に飲めるね!十四松兄さんと一松兄さんに連絡、連絡!」
「…あ、カラ松?今日、おそ松兄さんのおごりだって、うん、いつものとこ。二日連続でウハウハらしいから、遠慮なく呑んでいいってさ」
「はっあああ?!!何全員呼んでんだよ!!てか昨日の分って、ふざけんなぁああっ!」













スマホが鳴った。といっても、音が鳴っているわけではない。
バイブレーション機能を感じて、一松は猫を撫でる手を止めた。連絡してきたのは、兄弟の仲の誰かしかいないのは明らかだ。名前を見て、弟の名前を確認してから、一松は電話に出た。


「…何、……ふぅん、珍しい。……わかった」


立ち上がり、集まっている猫たちに一松は別れを告げる。雑居ビルとビルの間で少し開けた空間。小さな木の社が立っているあたり、わざわざそのためにコンクリートにもしないで残していた土地なのだろう。とはいえ、手入れもされずに崩れかかっているその社に一体どんなご利益があるのか、一松にはわからない。そこが猫のたまり場になっていることで、偶然一松が知ることになったと言ってもいい。気づけばそれ以外にもこの町には社が存在していて、そこに猫たちがのんびりと過ごしている。小さなころからこの町に住んではいるが、知らないことはあるもんだとその時何となく一松は思った。


そんな場所で馴染みの猫の一匹が息絶えていたのを見つけたとき、一松の考えたことはせめて苦しまなかったかということだけだ。傷を見れば近くの道路で引かれてしまったことはわかる。むしろ、この場所にこの体でよくたどり着いたものだと感心すらした。
良くあることだ、特に珍しいことではない。だからと言って、そのままにしていいわけはない。
社の近くに、一匹が入るぐらいの穴を掘って、寝かせてやってから。一松は静かにその穴を見下ろした。付けてあげた白いリボンが赤く染まってしまっていることに目を伏せて。
傍らに置いておいた小さな花束を穴の中へと置いた。上から土をかけてやれば、小さな体はあっさりと埋まってしまった。掘り返されないように、深くしたつもりだったが足りなかったかと一瞬不安もよぎる。


「……今度は気をつけてな」


それだけ声をかけて。兄弟たちがバカ騒ぎをするだろうおでん屋に向けて足を向けた。
その後ろで、小さく猫が鳴いた声がしたが、一松は気がつかない。
呼び止めるように鳴いている声に、一松は気づかなかった。

間 2 〜おでん屋前



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