歩く、歩く、ただ歩く。


次の一松地図目的地は、橋を渡った向こうの大きな公園だ。何度かカラ松もカラ松girlと逢うために行ったことがある。十四松も素振りのために行ったことがあるし、おそ松もチョロ松もトド松も行ったことがある。このあたりに住んでいる子どもなら。赤だの青だの交通ルールがわかるようになれば行けるようになる、つまりはそういう少し大きめの公園だ。


(に、してもだ)


モゴモゴと手の下で十四松が何か言っているのを感じながら、カラ松は震える息を吐き出す。家から出たときは何らかわりなかったはずが、時間が経っていくにつれて変なものが増えてきた。墨色の巨躯を揺らしてさ迷う、人。街灯に集おうとする、見たこともない虫。そして、襲ってきた焦げ炭の塊。それら全て、闇のなかに紛れてカラ松たちに迫っては灯りに逃げていくばかりだ。ビルとビルの間にいたやつのように十四松が持っている鈴はならない。けれど、無害、と言い切るには恐ろしすぎる様相。虫に至っては十四松がどっかから拾ってきたぼろぼろの虫取り網で捕まえようとし始めたのをカラ松が羽交い絞めにしてなんとか阻止できた。
今も大きな墨巨人がゆらゆら迫って来たのを、街灯の下でやり過ごしている。何度かのやり取りして、音を出さなければ墨巨人や炭人間は気づかない。
光と闇の淵で揺れながら、過ぎ去るのを確認して、ふっと小さく息を吐いた。手を離すと、十四松もふぅ、と小さく息を吐く。



「立ち去ったか……」
「いなくなったねー、」
「すれ違いも多くなってきたな、……ふ、かくれんぼに勤しむ趣味は無いぜ」
「俺、かくれんぼじゃなくてやきゅーがいいなぁ、」


二人の声が閑散とした住宅街で響く。カラ松は自分たちしか町の中にいないような感覚に目をつぶる。まるで、別世界に迷いこんだ、なんて。あまりにも馬鹿馬鹿しい考えを払った。


橋はそんなに大きくない。
コンクリートのどこにでもある普通の橋だ。街灯もついていて、下手な横道よりも明るい。だが、車道も歩道もカラ松たち以外の人気がない。おかげで普段気にしたことのない、川のせせらぎが聞こえる。癒されるはずの音が妙に気味が悪く、人の声が聞こえるような気すらした。カラ松はその音を振り払うように首を振る。


「魚!魚いるかな、〜……あ、なんか跳ねた!!」


十四松は、呑気そのものといったように欄干から下を眺めている。しかし、暗さも相まってカラ松にはなにも見えない。興奮で身を乗り出す十四松に注意しようと顔を向けた時だった。


カランとバットが地面に当たる音がして、
十四松が傾いて、
カラ松の視界から消えそうに、



「……っ?!」
「あ、ごめん兄さん」


とっさに手を伸ばし、カラ松は十四松の襟元をつかむ。そのまま引き戻すと、小さく安堵の息を吐いた。


「……危なかった、気を付けろよ。十四松。落ちたら洒落にならないからな」
「兄さんもあんま強く押さないでよねー、」
「……は?」
「……ん?」


微妙な食い違いに首をかしげる。と、カラ松は十四松の背中が汚れていることに気づいた。まるで、真っ黒な炭で汚れたままの手で、触ったような。そんな手形が十四松の背中についている。十四松がバッと上のパーカーを脱ぐ。


「うっわあ、なんだこれ?!カラ松兄さんの手よりおっきー!んじゃ、カラ松兄さん押してないんだよねー」
「あ、ああ」
「鈴鳴ってないし、怖くない奴かなー、でも危ないし兄さんも気を付けなきゃ」



十四松がばさばさとはらうとその汚れは簡単に飛んでいく。十四松は全く気にしている様子はないが、カラ松は少しだけ肝が冷えた気がした。気を付けないと、十四松もそして自分自身も簡単に連れて行かれてしまう。そんなことを改めて気づいてしまって。それでも、足を止めることはできなかった。

橋を渡りきると、ひんやりとした空気が二人を包む。今までのようにカラ松が懐中電灯の光を警戒しながら辺りに向ける。が、あっけがないほどに周りには何もいなかった。橋を渡るまではあんなにいたはずなのに。奇妙な光景にカラ松は首をかしげる。
と、公園の前まで来た時だった。


ちりん、と小さく鈴が鳴る。


「兄さん、」
「…わかってる」


公園に近づけば近づくほど、ちりんちりんと音が鳴る。警戒しろ、と訴えているそれに、さすがの十四松も顔を真剣にする。そして、公園に一歩足を踏み入れた。

4    〜橋



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