いの一番に幸せを祈っていただけ



木吉が風邪を引いた。
あのダァホが、雨風吹き荒ぶ中で着の身1つ傘もささずに何時間も外にいたらしい。知らなかったが、割りと木吉はふらふら散歩に出て何時間も戻らないことがあるらしい。大抵はあいつ自身うまく使いこなせてないが携帯を持っているし、何より、昨今はGPSという機能もある。安心こそはしてないが、それでも無理して家にいるよりも外でなにか気晴らしをと、思っていたらしい。13時間のリミットは木吉もちゃんと把握している。だから、その日も送り出して。普段帰ってくる時間まで戻らなかった。最初は珍しいと思ったらしい、雨や風もすごかったし簡単に探しに行けるような天気じゃなかったからどこかで雨宿りでもしているんだろう。そんなことを考えていた。だが、1時間、2時間と過ぎていくうちに 心配した木吉の祖父母がバスケ部にも連絡をくれた。当たり前だが、その連絡を武田先生から受けて、練習を切り上げて全員で探すことになった。
心当たりを探して、走り回った。バスケットコートやあいつが行きそうな場所。全部空振りだった。そして、事情があるやつや監督を説得して返してから一旦木吉の家に集まってたとき。伊月と俺だけになってしまったがあと探していない場所を考えているとひどく申し訳なさそうな木吉の祖父母から「手間をかけて」と言われた。そして。

「もう連絡をするなと言われていたのに申し訳ない」

このとき、初めて「この先何があっても誠凛バスケ部には連絡を取らないでほしい」と木吉がいっていたことを知った。唖然とした。
木吉は、バスケ部の連絡網を捨てていた。それどころではない。あんなに手放せないといっていたバスケの道具は案内された部屋の中に無かった、それどころかモノ自体がなかった。
寝るところと申し訳程度に置かれたままの机。そして、大量の日記帳。木吉が記憶を失い始めた辺りからつけているやつだ。木吉の記憶そのものといっていい。
いくらなんでもそれを除くことはできなかったがもう日も変わった。さすがに、普通の事態ではない。
一番新しい日時の日記を探すと、すぐ見つかった。それを本棚から引き出そうとして、からからと玄関が開く音がした。
「木吉!!」「あんたどこいって…」
伊月の声。

「木吉!!お前何やってたんだ!!」

部屋から飛び出して、玄関で立ちすくんでいる木吉を見ると背筋が冷えた。全身ずぶぬれで、顔色は悪い。なのに、なぜか申し訳なさそうに笑顔を浮かべて。奇妙に見えた。

「…悪い、みんな。心配かけたな、大丈夫だ」

それだけ言って、幽霊みたいに木吉はふらふらと靴を脱いで俺の横を通る。その眼には、何も浮かんでいない。



「木吉…?」


振り替えると壁にもたれ掛かるあいつがいた。力を失ったように廊下に崩れ落ちる方が早くて、俺たち誰一人支えることができなかった。

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