願いの根は見えぬところで深く這っていた



あの日、僕がここに来なかった日から、もう数日が経とうとしていた。
木吉さんは、来ていない。どうしたんだろう、何かあったんだろうか。不安にかられながらも連絡先を知らないから、なにも僕はできなかった。
そして、今も来て木吉さんを待っていた。ここしか、僕は木吉さんと会う術を知らないのだ。あの日の天気はどこへ行ったのか、青空は遠く高くまで澄んでいる。と、砂利を踏みしめる音が聞こえた。

木吉さん?と、振り返り、見知らぬ人が立っているのに気づいた。ジャージ姿で鞄を持っている。表情は険しい。
そして、まるで僕を見つけると口を開いた。

「お前が黒子か?」

そう聞いた人は、初めて会うのに責めるような目で僕を見下ろす。僕はただ呆然とレンズ越しに見返すことしかできなかった。

「木吉を待ってんのか?」
「はい、……木吉さんの知り合いですか?」
「ああ、知り合いだ。アイツから伝言預かってきてる。風邪引いてたから行けなかったんだ、ごめんだとさ」
「……そうですか。木吉さん、大丈夫ですか?」


そういうと、その人はなにかを考えるように目を逸らした後、ポツリと言った。

「お前はなんにも知らないんだよな」
「……え?」
「俺が言うことじゃないから、直接木吉に聞けよ。……今度もあいつと付き合っていく覚悟があるんだったらな」
「あ、あの、それはどういう」


続きは言えなかった。その人は、僕に背を向け、そして小さな声で呟いた。聞かせるつもりがあったのか、どうかはわからない。風が吹き抜けた瞬間に一瞬耳に届いたものだったからだ。



「あいつとの約束は破ってやるなよ」


その言葉は、僕の記憶を呼び起こす。約束。
後悔の錠は容易に開くものだった。

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