翼を広げずとも雨はしのげるから



その日も、ここ最近と何ら変わりない。単なるいつもの日常であると、そう思っていた。
昨日、木吉さんと別れた後、僕は「誠凛」について調べてみた。新設された、学校。昨年からだから、まだ1年上の人たちしかいない。部活一覧のところには、その部の練習風景の写真が載っていた。それを見て、ふと思い出す。


生徒手帳、あのインターハイの時に見たところの学校の名前も確か「誠凜」だった。偶然?まさかとは思いつつも、その名前が頭から離れることはない。真剣にバスケを楽しんでいるその人たちを思い出そうとして、ふと考え至った。もしかして、あの人たちの中に木吉さんはいたのか?記憶は少しおぼろげだった。ただ、当人に直接聞くのは少しためらってしまう。あの、誇らしげでいて、どこかあきらめているような表情は正直見ていたいものではなかったからだ。胸の奥が締め付けられるような、そんな苦しいことになる。
もう、僕は誰かを傷つけることをしていたくない。だから、きっと触れないほうが身のためだ。木吉さんにとっても、僕にとっても。

そんな諦めとともに、僕は手元のそれを見下ろした。進路希望調査書。第一志望も含めてすべて白のそれに、僕はペンを近づける。それから、いろんなことが浮かんできて、木吉さんの姿を思い返す。

『きっと、黒子なら誠凛でもうまくやっていけるんだろうな』

その言葉と、そして、僕が傷つけてしまった彼の贈り物を手にする。不思議と、選択肢は決まっているような気がした。
第一志望、誠凛高校。そう書いて、僕はそれを提出することにした。
そして、担任から呼び出しを受け取ることになった。当たり前だろう。今までの進路希望から急に変えたのだから。それは少し雲のでてきた昼のことだった。



・・・

少し時間がかかった。
放課後、もう部活にいないとはいえそれぐらいの時間になってしまった。緑間くんならいるかもしれない、けれど体育館にはきっと誰もいないだろう。僕も立ち入れる気はしない。どういう顔をしてそこにいればいいのかわからない。
外は激しい雨。早く帰れ、と先生がたむろしていた生徒に言う。それを横目に僕は帰り支度を済ませた。
そして、下駄箱まで向かって、傘を掴んだとき。ふと、木吉さんのことが気になった。あの人は今も待っているんだろうか。外に出たとたん、冬の近づきからか、ひどく寒かった。連絡をしようにも、僕は木吉さんの携帯番号を知らなかった。
明日謝ろう。この天気ではきっと、木吉さんも帰ってしまっている。それで、明日あったら、志望校を誠凛にしたことを伝えよう。

このときの僕は、これが最良だと思っていた。
本当なら、「また明日」といったから、ぼくは行くべきだった。行かなければ、いけなかったのだ。







翌日、雨が上がって駅舎に向かっても、そこに木吉さんはいなかった。

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