のみ干せない思いが多すぎる



昔の下らない例え話だ。広い草原に羊がいるとしよう。それは、どこかに行かないように鎖で繋がれていた。羊はくるくる杭の回りの草を食べた。それから、食べ終わってしまった後は、生えてきた草を食べた。無論、鎖の長さ以上のところへはいけない。羊は、餓えながら何もないところをくるくるまわる。そうして、草の根さえ食べ尽くした羊は---





目が覚めた。白い天井が目に飛び込んで、見慣れたものではないことに少しだけ首を捻る。上体を起こすと、周りにはベッドがいくつか置かれていた。病室?なぜだろう。訝しげに周りを見渡すとベッドサイドに立派なノートがおいてあるのに気づいた。表紙には俺の字で“絶対に起きたら最初に読むこと”と書かれていた。手を伸ばしてそれを取った。そして、一枚目に目を通した。


すべてを読み返した。それから右膝に手を沿わす。サポーターの感覚がそこにはあった。そして、確かな違和感があった。ベッドの横には杖があった。手に取るとしっかり手のひらに馴染んでいる。使い込んでいるような、まさか。そんなわけがない。そんなことがあってほしくない。杖を支えに体をベッドの外へ乗り出す。右膝がおかしい。動かないと言うレベルではなかった。おかしい。あってほしくない。必死に願いながら、廊下に出た。杖の先が廊下の床を叩いた。窓がある。外を見てしまった。なんで、どうして。血の気が引いていく。

「おい、木吉!!」

振り替える。日向がいた。真っ青な顔をしていた。マフラーをしていて、冬服を着ていた。どうして。そりゃ、雪が降っているから。どうして。木の葉がすべて落ちて木の肌が見える。どうして。それぐらいに寒いんだろう。でも、どうして。

「日向、今日は、いつなんだ?インハイの次の日だよな、そうだろ?」
「木吉、あのな」
「日向、」

日向は、まるで死刑宣告をするように悲壮な顔で言った。やめてくれ、頼む

「木吉、今日はーー12月だ」


記憶は、インハイの次の日からだった。あの日、インハイの予選で俺は怪我をして、バスケができなくなるかもしれないと宣告された。それから、日向と約束した。日本一になると。そして、今日までの記憶がなにもなかった。まるで一続きでその間がないことが正しいかのように。
よっぽどひどい顔をしていたらしい。日向はなにか辛いものをみるように俺を見た。違う、日向は悪くないんだ。


忘れてしまった俺が悪いんだ。

「わ、わり。日向…」

何とか笑顔を作った。つらくない、日向だって見舞いに来てくれている。日記を見る限り、誠凜バスケ部のみんなも部活が終わった後に毎日来てくれている。つらくない、つらいわけがない。そうして、日向を見て。
俺は言葉を発せられなかった。

「謝んなよ、ダァホ」

日向は泣いていた。


俺は、13時間で記憶を失うようになってしまったらしい。最初は何にも違和感はなくて、退院してから少しずつぼろが出るようになった。やった授業内容を覚えていない。言われたことを覚えていない。そして、一番の違和感が、俺の記憶の季節が急に飛ぶことだった。さすがに、まずいと思ったのか。日記をつけ始めた"俺"はそうして自分がおかしくなっていることに気づいた。だから、詳しいことを調べるためにまた入院をした。事実を調べた。

そしてわかったことは、俺は事故で頭をぶつけていた。車道に飛び出してしまった子供を助けようとしたらしい。一時退院状態で無理をしたらしいけどその時検査して、何ともなかった。でも、確かにその時。俺は致命的な何かをしてしまった。だから、記憶がとどめておけないようになった。つまり、13時間で消えるメモ帳に必死にメモしているのと同じだ。日記には書いていた。ここ数か月どうしたか。どう対処したか。13時間で消える記憶では、学校には通っていられなかった。なにより、忘れてしまったことで誰かが悲しむのを見たくなかった。だから、おれは。


「日向、」
「なんだよ、」
「俺、学校やめたのに、まだ来てくれるのか?」
「当ったり前だっつの」
「俺、もう誠凛高校通ってないのに…」
「ぐだぐだうるせぇ。」


日向は泣いていた。悔しそうに、泣いていた。






昔の下らない例え話だ。広い草原に羊がいるとしよう。それは、どこかに行かないように鎖で繋がれていた。羊はくるくる杭の回りの草を食べた。それから、食べ終わってしまった後は、生えてきた草を食べた。無論、鎖の長さ以上のところへはいけない。羊は、餓えながら何もないところをくるくるまわる。そうして、草の根さえ食べ尽くした羊は---そのまま一人で飢えて死ぬしかない

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