戦の熱の鎮めかた・前

※キャラ崩壊注意。武将に勝手なイメージ抱いてます。
※下ネタ注意。前半はギャグ風味、後半はちょい甘&シリアス。
シモい話ですが直接的な描写はありません。そこに至る経緯中心。
※夢主は男性経験なしで張遼に片思い設定。
人外描写はありませんが、思い込みから暴走しまくってます。
※魏軍のお話。時系列目茶苦茶の何でもあり世界。年齢とか考えちゃダメ。




『武将は戦の折、その昂揚感を鎮めるために女を抱く』

事の発端は、英瑠がそんな話をどこからか聞きつけたことだった。

彼女はそれを聞いて、まず羞恥に顔を染め、それから、男性の生理とはかくも不思議なものであると神妙な顔で考えこんだ。

頭に思い浮かべるのはたった一人の事。
そう、泣く子も黙る合肥の鬼神だ。
彼も、やはり……、『そう』なのだろうか。
考えれば考えるほど心臓は早鐘を打ち、顔は火照っていった。
英瑠は、張遼に想いを寄せていたのだった。

そして、ようやく気を取り直した彼女は、これは真偽を確かめるべく、信頼できる将に直接聞いてみるべきだと思い立った。

彼女は、戦場に出ている同性の先達に話を聞こうと思い、まずは経験豊富そうな王異の元へ向かったのだった。

「ふふ……何を訊くかと思えばそんな事……
ええ……。戦の前は、身体が昂るわ……。
あの人を斬り刻むことを想像した日には、夜も眠れないほど……
ふふ、こんな気持ちで男を相手にしたら、きっとその相手が無事じゃ済まないわね……。
女の私でもこうなのだから、男の武将はもっとすごいのでしょうね……ふふ……」

英瑠の脳裏にいろいろと怖い光景が浮かび、彼女は慌ててふるふると首を振りそれを頭から追い出した。
彼女は王異からいくつか助言を頂くと、次はもう少し大人しい人に訊くべきだと蔡文姫のところへ向かったのだった。

「はい……そうですね……
戦の前は……身も心も昂るもの……
私はそんな時には、箜篌を奏でて気を落ち着けます。
しかし……、血気盛んな殿方はきっと、気を鎮めるのが大変なのでしょう。
それこそ、女性の身体を演奏しなければならないほどに……」

蔡文姫は大人だった。
おしとやかな見た目からは想像出来ないほど、いろんな意味で。
「気持ちを鎮めて差し上げたい方が居るのなら、正直に、打ち明けてその身を……」
蔡文姫はそんなことを言っていたような気がする。
やはり大人だ。というか身体を演奏って何だろう。
英瑠は蔡文姫からあるものを頂くと、丁重にお礼を告げて彼女の元を去った。

次に英瑠は、甄姫の元に向かおうとして――恐れ多いのでやめた。
というか、訊く必要がない気がした。
「我が君はとても情熱的なお方……」
彼女の艶っぽい声がどこかから聞こえた気がして、英瑠はまたぶんぶんと頭を振った。

やはり男性武将に訊かないと本当のところはわからないのだろうか。
しかしこのような繊細なことを訊ける男性武将はそうは居ない。

主である曹操――は、恐れ多すぎる。とんでもない。
しかも、そんな事を訊いた日には、無事では済まない気がする。
何故だかとてもそんな気がする。命的な問題ではなく、何となく、貞操的に。
その息子はさらに論外だ。ごみを見るような視線で見下され、精神的に死ねるだろう。

ならば彼の周囲は。
夏侯惇。……怖い。
怒鳴られること必至だろう。
こちらの場合は命的な意味で危ない気がする。

ならば曹仁。……申し訳ない。
彼ならもしかしたら律儀に教えてくれるかもしれないが、その律儀さがかえって申し訳ない気がする。

ならば夏侯淵。彼ならば、うろたえつつも笑いながら教えてくれるだろうか。
いや、逆にからかわれて窮地に陥る予感がする。
何のためにそんなことを知りたいのか突っ込まれる気がする。
というか、下手するとすべてを悟られて、張遼への思慕含めて全員に知られる気がする。
これも危ない。

張遼……と同じ張姓を持つ張コウ。
彼は美しいものにしか興味が無い。
果たして彼が下世話で美しくない質問に答えてくれるだろうか、甚だ疑問である。

徐晃。彼も、律儀郡真面目県の人間だ。
というか、彼は戦の昂揚感に当てられたら、武の鍛練に精を出す手合いだろう。
場にそぐわないやましい気持ちは全て、武器を振ることで解消しているに違いない。
逆に、そこは割り切って沢山の女で解消すると言い切られても、それはそれで戸惑うものがある。
彼の黒い部分は見たくない気がする。

典韋。曹操を護るために全神経を注いでいる彼が、戦の前に女と居るわけがない。

許チョ。彼はあらゆる昂揚感を食事で解消できそうだ。
三大欲求に大幅な片寄りが見られるが大丈夫だろうか。

ホウ徳。彼も曹仁寄りだ。
堂々とした口調で全てを正直に語られたら、どうして良いかわからなくなってしまう。

于禁。……正直、彼にそのような質問をぶつけるだけでも首が危うい気がする。
風紀を乱すとして牢に入れられでもしたら全てが終わってしまう。

残るは、李典、楽進、賈ク、そして郭嘉。

李典は張遼と折り合いが悪い。
他でもない、元呂布軍の件でだ。
遠回しとはいえ彼に、張遼に繋がることを質問するのは気が引ける。

楽進はどうだろうか。
未熟者ゆえ、そんなことはしている暇がありませんと言いそうだ。
彼も徐晃と似た匂いがする。
いやしかし、私の槍は夜も一番槍です!とか言われたらどうしよう。戸惑いしかない。
というかこの想像は最低だ。本当に最低だ。

賈ク。あははあ、大事な戦の前に女なんかを近付けるわけにはいかないねぇ。
と言いそうだ。軍師という生き物はえてして用心深いものだ。

そして、同じ軍師なのに警戒せず女性に声をかける郭嘉という人間。
彼は彼なりに自らの嗅覚を持って安全な女性を選別しているのだろうが、果たして彼に意見を聞いたところで、それを男性の一般的な意見としてしまって良いものだろうか?
彼は女を抱きながら知謀を巡らせることの出来る人間だろう。
しかも、戦の熱に酔って神経を昂らせる類の武将ではない気がする。

……そこまで考えたところで英瑠はため息をついた。
恥ずかしながら男性経験のない彼女は、男性の性について聞きかじった最低限の知識しかなかった。
今挙げた各々の武将の想像も、客観的に見ればやや美化している気がするがそれはこの際おいておこう。

英瑠は考え、やはりこの話はもう忘れることにしようかと思い始めていた。
「やっぱり男性にそういうことを訊くのは恥ずかしいよね……」
今更至極当たり前の結論に行き着き、独り言を述べたところで。

「何が恥ずかしいんだい…?」
「ッ!?」

英瑠が弾かれるように振り返った先には郭嘉が立っていた。
英瑠は今の独り言を聞かれてしまったことに動揺し、首と手をぶんぶん振ってとりあえず否定しまくった。

「お、落ち着いて……。
何をそんなに慌ててるのか、私に聞かせてくれないかな……
何でも相談に乗るよ……何でもね……。
さぁ、ゆっくり話せる場所へ行こう……。」

郭嘉の優しく甘い口調に涙がこみあがった英瑠は、藁にも縋る思いで郭嘉に着いて行き、戦の折の男性の性についての疑問を口にしたのだった。


***********************

「はは…。そうだね……
私も戦の前は、身も心も昂揚するよ……。
たとえば、あなたのような女性武将が軍中に居たら尚更ね……。」

雰囲気のある庭園で並んで座りながら、答えになっているような、なっていないようなことを口にしながら、英瑠との距離を詰めていく郭嘉。

「あなたはどうなのかな……?
こんな風に、異性に触れたくなるのかな……?」

郭嘉の伸ばした腕が英瑠の肩にそっと置かれ、それから優しく撫でた。
英瑠は抵抗せず顔を赤らめ、郭嘉が手応えを感じたのも束の間、しかし彼女は「わ、私があの方に触れるなんて恐れ多いです!!」と慌てて答えていた。
彼女が発した一語に眉を動かした郭嘉は、あの方とは、と問うた。

しまった、というふうに口を押さえてさらに顔を赤くする英瑠に、郭嘉は嫌な予感を覚え、とりあえず伸ばした手を引っ込める。
そしてため息をひとつつき英瑠に向き直ると、ゆっくりと語りかけるのだった。

「英瑠殿……聞かせてくれないかな……
あなたが何故、こんなことに疑問を持ったのかを……」

苦笑いを浮かべながらも落ち着いた口調でそう告げると、英瑠はとうとう堰を切ったように本音を話しはじめるのだった。
いわく、「男性武将は戦で昂った気を女性で鎮めると聞いて、想い人もそうなのか気になって仕方がなかった為」と。

果たして郭嘉の嫌な予感は的中した。
彼は、二人きりにも関わらず自分のことなど全く眼中にない英瑠に苦笑いを浮かべると、それでもいっぱいいっぱいになっている彼女のお悩みに、何とか答えようと心を決めたのだった。
「あなたの想い人とは……、もしかして、張遼殿かな……?」

がたん。

英瑠は、何故知っているというふうに反射的に立ち上がると、口をぱくぱくわななかせ、やがて泣きそうな顔になって後ずさるのだった。

「その反応は図星……かな。
安心して欲しい。他の人に言いふらしたりはしていないよ……。
端から見ていて、そうじゃないかなと思っただけなんだ……。」

だってあなた、彼のことだけ字で呼んでるしそれを許す彼も含めそもそもが親密すぎでしょ、と言いたいのを堪えて郭嘉は彼女を安心させるために言葉をかけた。

英瑠は、その言葉にようやく冷静さを取り戻すと、郭嘉に向かってうろたえたことを謝罪するのだった。
郭嘉はそれをなだめ、やがて本題を口にした。

「英瑠殿……
私のような軍師ならともかく、張遼殿のような勇猛果敢な武将なら、戦の気に当てられて神経が昂ることはあると思うよ……。
あなたが、彼が他の女性で熱を解消することを良く思わないなら……、
他でもない、あなた自身が彼の熱を鎮めてあげればいい」

郭嘉は自分で口にしておきながら、これは冗談が過ぎるだろうと思った。
懸想を言い当てられただけで赤面してしまうような彼女が、そんな大胆なことを出来るわけがない。
これは単に、彼女をからかっただけなのだ。

その証拠に、彼女も。
郭嘉の言葉を聞いて、固まっているではないか。
顔を真っ赤にして眉尻を下げたままの彼女の震える唇からは、
「私のような者が……文遠様を……
それは申し訳ないですよ……
それに、良く思わないなどと……そんなことは……恐れ多い……」
などと、小声が漏れている。

そうだろうそうだろう。
面白いものを見たと郭嘉が内心微笑んだところで、いい加減もう彼女をいじめるのはやめようと口を開きかけた時。

「そうですよね……やってみないとわかりませんよね……」

彼女から不穏な言葉が聞こえてきて、郭嘉は耳を疑った。

「私のような者が文遠様に……、とんでもなく恐れ多いとは思いますが……
でも、試しもしないで諦めてしまうのは武人としてどうかと思います。
これできっぱりと拒絶されたり、無礼だと斬り捨てられたりするなら、身を裂かんばかりの積年の想いにもようやくふんぎりがつくというもの……!」

うん? 待って。ちょっと待って。
何か今、不穏な言葉が聞こえたよ。
というか斬るとか、そこまで彼は鬼じゃないと思うよ。多分。

「龍英瑠、いざ恋路に身命を賭さん!」

あれー、何かおかしいな。
何かおかしいなこの娘。

冗談を本気にしてしまい勝手に心を決めてしまった英瑠は、唖然とする郭嘉に丁重にお礼を述べて、駆け足で去って行ってしまった。

さて、後に残された郭嘉は。
乾いた笑みを顔に張り付かせたまま、遠い眼でしばらく固まるしかないのだった。




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