6-05
険しい山道と、足場の不安定なダチャオ像をひいひいと登る。
コルネオはあの弛んだ体で、何故人間を抱えながらここを登れたのだろうか。そう思うと、彼もそれなりに身体能力が高いのかもしれない。
崖を這うように、不安定な像の上を進んで行く。
中でも一番大きな像の顔部分。その付近に辿り付くと、ダチャオ像の顔にどういう仕掛けなのか、イリーナとユフィが揃って括り付けられていた。
先程亀道楽で会ったばかりのイリーナがここに居るということは、山を登るのに結構時間を食ってしまったのだろう。
相変わらず情けない。が、一般人に産毛が生えた程度の私にはこれが精いっぱいだ。
「奈々〜!! 助けて〜!」
私の顔を見たユフィが、必死にそう叫ぶ。
隣のイリーナも声こそ上げないが、若干その表情に安心感が見えた。
「ほひ〜! またまた新しいおなごが・・・控えめそうでかわいいのお〜!」
「・・・それって地味顔ってこと?」
どこからともなく、事の元凶であるコルネオが姿を現した。
ウータイに着く前に鉢合わせた神羅兵、彼らが追っていた人物こそ、この男なのだ。
神羅にまつわる情報を敵であるクラウドに漏らしたことを追及され、今では神羅から身柄を追われる立場にある。
しかし、そんな重大な事に陥っているなどとは微塵も感じさせず、彼は身体を左右に揺らしながらこちらをジロジロと見ていた。
「今日の相手はどの女子にしようかの〜!」
金髪モヒカンに真っ赤なガウンを身に付けているという、非常に目立つ風貌のコルネオがどうしてここまで逃げて来れたのだろうか。
そして、ナチュラルに私まで選択肢に入れているあたり、相変わらず歪みない女好きである。
「アンタの夜のお相手なんて死んでも御免。とっとと観念して、神羅さんに捕まえてもらえば?」
抜いた剣をコルネオの鼻先に突き付けながら言うと、彼は余裕そうな顔で指を一度パチンと鳴らす。
それが合図だったのか、私が今立っているダチャオ像の掌の下から、ワイバーンのようなモンスターが現れた。
「ラプス、カモン!」
「ラプス・・・弱点も吸収属性も無し。片手剣じゃ攻撃が届かない。なら、魔法で力押し!」
ゲームをやっている当時は、武器のリーチなんて気にしなくてよかったのにな、と考えながらラプスに目を向ける。
某モンスターをゲットして戦わせるゲームの影響だろうか、どうしても飛行している相手には雷を当てるのが有効に思えてならない。
私は最近得意のサンダガを唱えるべく、マテリアに魔力を込めた。
しかし なにも おこらなかった!
「・・・あああマテリア無いんだった!!」
「ええー!!」
それもそのはずだ。私はつい先程、ユフィから全てのマテリアを奪われたばかりだった。
不満げな声を上げるユフィに、つい「えー、じゃない! ユフィのせいじゃん!」と言い返す。
その隙を狙い、ラプスが得意のエアロガをこちらに放ってきた。
「ヤバイあれ食らったら落ちる!!」
渦巻く強風をなんとか避けるも、私はダチャオ像の淵に追い詰められる。
守り神だか火影岩だか知らないが、こういう時に決まって神様は助けてくれないものだ。
こちらを伺うラプスを睨み返すことしかできない。
「ほひ〜! 俺のお嫁さんになると約束するなら、助けてあげないこともないぞ?」
「生理的に無理!」
つい、無意識のうちにそう叫んでいた。
だって私の夢はクラウドのお嫁さんになることだし・・・!
そんな夢も儚く散ってしまいそうな状況に、うっすらと涙が浮かぶ。
こんなことなら、例え「あれれ〜」という言葉を多用することになっても誰かしら戦闘員を引っ張ってくるんだった!
特に飛び道具持ってて重力無視できそうなヴィンセントとか!
打つ手が無く、ただ身構えるしかできない。そんな中でもラプスが容赦なく、エアロガを放つ予備動作を始める。
あの強力な魔法をくらい、ダメージで力尽きるのが先か、それとも転落死するのが先か。
半ば覚悟を決めかけた瞬間だった。突然、電撃のようなものがラプスを襲った。
「タークス光線炸裂だぞ、と」
「レノ!」
「お困りかい、お嬢さん」
なんというナイスタイミングなのだろうか。
赤毛をフワリと揺らしながら颯爽とそこに現れたのは、レノ。
私とは打って変わって、不安定な場所だろうが、その足取りは猫のように軽やかだだ。
レノはその手に持ったロッドで肩をペシペシと叩きながら、ゆっくりと歩を進める。
ルードもこちらに来ていたらしく、レノの後ろから同様に歩いてきた。
二人に助け起こされ、私はようやく体制を立て直すことができた。
「さて、これからどうするよ」
「実は私、マテリア全部持ってないんだよね」
そう言うとレノもルードも「マジかこいつ」と言いたげな顔になる。
しょうがないでしょ。不可抗力だ。
しかし、魔法が使えなくても、物理攻撃が届かなくても、打つ手が全くないわけではない。
そう、何か投げれば良いのだ。
手裏剣だのナイフだのといった投擲武器は持ち合わせていないが、ラプスには重力系攻撃が有効・・・ということは、手持ちの時空弾が有効ということになる。
私は、以前ゴールドソーサーで手に入れた時空弾を握りしめ、ラプスへと力いっぱい投げつけた。
レノの攻撃によって動きを鈍らせていたラプスは、それをよけきれずまともに喰らう。
すると、ダメージを食らうだけでなく、急な重力に襲われたラプスがガクリと高度を下げた。
ここまで下がってしまえば、十分近接攻撃の射程内だ。
「ナイス。今だぞ、と」
「ああ・・・分かってる」
ルードがすかさずラプスに攻撃を仕掛ける。ずっしりとした重量級のパンチを、ラプスの胴体目がけて振り上げた。
レノも勢いよくロッドを振り、見事にそれを命中させる。同時に攻撃しているというのに、どちらもお互いを邪魔しない見事なコンビネーションだ。
するとラプスは、一旦引いて体勢の立て直しをしようと図ったのか、羽を大きくばたつかせ始める。
このままではせっかく下ろしたラプスが、再び高い所に戻ってしまう。
それは避けなければ、と考えている間には既に身体が勝手に動いていた。
「ルードさん! 投げて!」
そう叫んでからルードの方へと向かう。
彼は私の言葉の意味を読み取ってくれたらしく、こちらに向かって腰を落とし、両手をガッチリと組み構えた。
彼が構えた手に飛び乗ると、ルードはそのまま渾身の力で私を空へと放ってくれる。
ふわりと浮いた体は、丁度ラプスより少し高いくらいの位置まで上がった。流石に、良いコントロールだ。
「逃がすかぁ!」
剣を逆手持ちし、全力でラプスへと突き刺す。
少々長めの剣なので刺しにくかったが、それでも決定打としては十分だったようだ。
ラプスは苦しげな声を上げながら落ち始める。私はすぐさま剣を引き抜き、落下するラプスから離れた。
後ろを見れば、ダチャオ像の端に立ち、こちらに手を伸ばすレノの姿が目に入る。
何とか身体をよじりその腕をつかむと、そのままグイと引っ張られ、無事に像の上へと着地することができた。
「・・・無茶をする」
「あはは、我ながらそう思った。でも、ありがとうルードさん、意味分かってくれて」
「本当だぜ。どっかの狩猟民族かと思ったぞ、と」
何故か、タークスの面々と私とでラプスを倒してしまった。
まさかの展開だったが、ファンとしてはこれも中々に面白い戦いだったので、文句は無い。
やっぱりタークスはかっこいい。やる事は割とクズだけど、彼等はかっこいい。
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