FF夢


 6-06










ラプスを倒し終えた頃、ようやく見知った面々が山道を登ってきた。

クラウドとナナキとティファ。
足場が悪い場所だからか、比較的フットワークの軽そうな三人を選抜してきたのだろう。


続々と増える敵の数に、コルネオはひと筋冷や汗を流しながらこちらへ話しかける。



「ま・・・待ってくれ!」
「お断りするよ」

そう言ったにもかかわらず、彼は口を噤むことなく喋り続ける。
なんとも肝だけは据わった男だ。流石にスラム街のボスをしていただけのことはある。

「なぁ、俺たちみたいな悪党が、こうやってプライドを捨ててまで命乞いをするのは、どんな時だとおもう?」


聞き覚えのあるフレーズに、眉がピクリと動くのが分かった。

これの答えは「勝利を確信しているとき」であることは、分かっている。でもそう答えてやるのもなんだか腹が立つ。
「どうでも良いよ、そんなこと」とだけ返すと、コルネオはニヤリと笑って懐から何かを取り出した。

コルネオは手に持っていたスイッチらしきものを操作する。
するとどういった仕掛けかは分からないが、ダチャオ像の顔面に括り付けられていたイリーナとユフィの体が半回転し、頭が地上の方を向く。


「このスイッチを作動させれば、このまま二人とも地面に真っ逆さま。潰れたトマトの出来上がりだ!」


その言葉に、私とクラウド達の体が強張るのがわかった。

しまった。これでは、タークスがコルネオに奇襲をかけるという、本来のシナリオから逸れてしまっている。
どう切り抜けるか。そう思案していると、横に立っていたレノがひとつため息を吐いた。


「なーんかお前、勘違いしてないか?」
「ほひ?」
「俺もイリーナもタークスだ。人質なんかが通用するとでも思ってんのか、と」


レノのその言葉に、コルネオが一瞬怯む。
人質さえ取っていれば、自分の身は安全だとでも思っていたのだろう。

レノの言葉が真意であれハッタリであれ、コルネオに大きな隙ができたのは確かだった。

その隙を逃さず、後ろで控えていたルードが、素早くスーツの袖口から何かを飛ばす。
ダーツの矢程度の大きさの刃物に見えたそれは、一直線にコルネオの手元を打ち抜く。
カツン、と音がしたかと思えば、コルネオが印籠のように掲げていたリモコンが地面に落ちていた。


その瞬間、レノが驚くほどに軽やかな動きでコルネオとの間合いを詰める。
そして、彼の身体を軽く蹴り、バランスを崩した。


ダチャオ像の掌から落下しそうになったコルネオの、命綱とも思える腕を靴で踏みつけながら、レノは彼に語りかけた。


「俺達があいつらと手を組んでまで、お前を追い詰めるのは、一体何故だと思う?」

コルネオの先程の問いかけと同じような質問を、今度はコルネオ自身に返した。

顔を真っ青に染めたコルネオは、引き攣った声で「しょ、勝利を確信した、時・・・?」と何とか答える。
しかし、コルネオにとっての正解がそれであっても、レノの答えは違ったようだ。
彼はニヤリと笑ったかと思えば「不正解だぞ、と」と言い、靴でグリグリとコルネオの手を踏みつけた。



「ひっ・・・やめ・・・」

やっとのことでしがみ付いていたコルネオだったが、靴で踏みつけられては持たなかったようだ。
手を滑らせ、叫び声を上げながら遠い地上へと落下して行った。

「正解は」

それをしっかり見送ったレノが、地面に向かって呟く。
そしてその後を継ぐようにして、ルードが答えた。


「・・・・・・仕事だからだ」




任務遂行の為ならば、どんな手も使う。
それが彼等タークスのやり方であり、美学なのだろうか。

非道な行いに肝を冷やすような場面なのだが、彼らのファンでもある私は、ドキドキと高鳴る胸を押さえる事しか出来なかった。



数秒間の沈黙ののち、レノのポケットから「ピピピピピ」と高い電子音が響く。
そこから、いつぞや見た携帯電話を取り出し、それを耳にあてるレノ。
電話の相手はツォンさんだろうか。それとももっと上の人間なのだろうか。

敬語で受け答えしながら、レノはこちらをチラチラと伺うように見ていた。


「・・・はい、直ちにかかりますよ、と」
「先輩、会社からですか・・・?」
「ああ。クラウド達を探せ、だとよ」
「・・・仕事か?」


その言葉に、クラウドやティファ、ナナキが己の武器に手を添える。
一触即発の空気が流れるかと思いきや、レノが前髪を払いのけながら「・・・いや、今日は非番だぞ、と」とだけ言った。


彼らに多くのファンがついていることに、今更ながら実感を感じる。
さっきまで仕事してたじゃん!なんて野暮なつっこみは、この際やめておこう。
私達は彼らの粋な計らいを、甘んじて頂戴することにした。










イリーナとユフィが助け出され、事件が収束してから。
ユフィの自宅へと招かれた私達は、ようやく自分たちのマテリアを取り戻すことができた。

「へへへ・・・これでオッケー! 全部元通り! いつもだったらあんなヤツ、このアタシがギッタンギッタンにしてやるんだけどね〜」
「言いたいことはそれだけ?」
「えっ?」

ぽかん、と目を見開くユフィに、分かり易く拳を握って見せる。
そう、私は誓ったのだ。このおバカ忍者に一撃拳骨を落としてやるのだ、と。


「あ、あのさ、ほら、話せば分かるって・・・」
「ダチャオ像からここに来るまでの間、待ってあげたにも関わらず、ごめんなさいの一言も無し!」
「あう、ごめんなさ・・・」
「遅い!!」

ゴイン、と鈍い音が響く。
顔じゃなかっただけ有難いと思ってもらいたい。

相当痛かったのか、涙目になって頭を抱えるユフィ。私程度でこの有様とは、ティファじゃなくて良かったね。
彼女の全力拳骨なんてくらったら、それこそ頭蓋骨が粉砕してしまうだろう。



「ユフィ」
「ひっ・・・は、はい」
「私、ユフィを命がけで助けに行ったのになぁ・・・ユフィがマテリア盗ってったお蔭で、死ぬかと思ったなぁ」
「うっ、ご、ごめんって」

いつの間にかユフィはその場にちょこんと座り込み、捨てられた仔犬のような視線をこちらに向けている。
腹が立つが、かわいい。普段勝気な彼女が眉を下げてシュンとしている姿は、同性ながら胸にキュンと来るものがあるのだ。


「・・・もう、マテリア盗まない?」
「盗まない! ・・・奈々のは」
「嘘つかない?」
「つかない! ・・・奈々には」

「よし!」
「良くない!」


クラウドの鋭いツッコミを背中に受けながら、ユフィにそう約束させる。
彼女の事ではそれもあてにならないが、まぁしばらくは大人しくしているだろう。

これで、彼女がパーティに加入しても安心だ。



その後、五強の塔を踏破し、自身の父親との和解も済ませたユフィが正式に仲間として参加表明をした。


若干、訝しまれながら、ではあるが。









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