FF夢


 6-04










ウータイエリアを北上し、私達はウータイへとたどり着いた。



そこは以前訪れた時と変わらず、街中に張り巡らされた川がキラキラと青い光を放っている。
それに相対するような朱色の建物が、なんとも絢爛な街並みを作り出しており、実に美しい。

遠くには巨大なダチャオ像や、五重の塔ならぬ五強の塔がそびえ立っている。



キョロキョロと街中に視線を走らせると、建物の間をユフィがちょろりと駆け抜けていくのが見えた。
クラウドも同じく目撃したようで、そちらを指さしながら「あそこだ!」と声を上げた。

ユフィが消えた方に向かうと、そこにはいつぞやザックスと来た亀道楽があった。
変わらぬ店構えに少しだけ懐かしさを感じつつ、その扉に手を掛けて開く。

中を見渡すが、残念ながらユフィの姿はない。
その代わりと言っては何だが、見覚えのある三人組が食事をとっている姿を目にした。



「あっ、あなたたち、何故ここに・・・!」

金色の髪を揺らしながら、こちらをキッと睨みつけるイリーナ。

彼女はファイティングポーズを構えながら「いいえ、理由なんかどうでもいいわ、覚悟なさい!」と臨戦態勢に入る。
こちらも負けじと武器に手を添えるが、予想外に奥のテーブルから制止の声が上がった。


「イリーナ・・・うるさいぞ、と」

そう声を掛けたのは、レノ。
テーブルの上に広げられた飲茶やら餃子やらお酒やらに手を伸ばしており、戦闘に入るつもりはさらさら無いようだ。


「先輩! でも、せっかく仕留めるチャンスが」
「そりゃ勤務中ならな。だが、あいにく今は休暇中。時間外労働をするつもりはないぞ、と」

日本の企業もサービス残業などとのたまっていないで、彼らを見習うべきだろう。
こうしてしっかり休暇も与えられるあたり、神羅カンパニーは意外にもホワイト企業なのかもしれない。

・・・時折、予期せず実験体にされたり、会社の意向で存在を消されたりするだけで。


レノにもルードにも戦う気が見られず、こちらも警戒を解く。
イリーナも一人でこちらのパーティに戦いを挑むつもりは無いようで、口惜しい顔をしながらも席に着いた。
マテリアの無い今この時に戦闘になったらたまらない、と全員が思っていただろう。タークスに悟られぬよう、そっと安堵の息を吐いている。


「ここには居ないようだし、手分けして探すぞ」

クラウドはいち早く行動を再開していた。皆に指示を出し、自らも早々に店から立ち去って行く。
次々に仲間たちが退店していくのを見ていると、必然的に私が一番最後までその場に立っていた。

私もぼちぼちユフィを探し回るフリでもするか、と思い立ったその時、こちらを見ながらレノがニヤリと笑みを浮かべていた。


「こないだは世話になったな、と」

こないだ、とは一番最近彼らと会った時の事だろうか。
ゴンガガエリアでは随分とあること無いこと言ってくれていた、この男。
そんな恨み言を込めるかのように、私も含みのある言い方で「こちらこそ」とだけ返した。


「そういえばこの間、彼女のこと捕まえ損ねてましたよね、先輩たち」

イリーナがぼそりと呟いた言葉に、レノもルードもぎくりと身を強張らせる。

「私、ツォンさんに急いで報告に行ったのに。先輩たちったら、さっさと退却して来ちゃって」
「そ、それは・・・コイツの魔法がえげつないからだぞ、と」
「・・・・・・ああ、それに・・・精神攻撃も、受けた・・・」
「ルードさんの節は申し訳ないと思ってるけど」

確かに、あれは大分意地悪だった。
しかし最初に手を出してきたのは、彼等だ。私はあくまで正当防衛をしただけ。

レノが不服そうな顔をしながら「え、俺には?」と呟いているが、聞かなかったことにしよう。



「ところで貴女、何故社長のプロポーズを断るのよ!」
「プロポーズ!? されてないされてない!!」

突然始まったピンク色の話題に、私は全力で首を横に振る。

「だってフィアンセなんでしょ?」
「ちがーう!」

彼女はどうやら、すっかり私の事をルーファウスの正式な婚約者だと信じ込んでいたらしい。
いつもクールなイリーナの目が、今やキラキラと無数の輝きをともしている。


「でも、それにしたって婚約しちゃえばいいのに。玉の輿よ? 社長、見た目も素敵だし」
「ええ・・・いや、私もっと優しい人のほうが好きだし・・・」
「ああ、社長はクール系だものね」

果たしてあれをクール系、と言って良いものなのだろうか。
ルーファウスの場合「オラオラ系」と言ってもまだ足りないような気がする。

あなたのボスは真性のクズ系サドですよ、と言ってのけてやりたい。


「確かに、私ももう少し紳士的な人の方がいいわね」
「ああ・・・黒髪で良い声で真面目な感じの?」
「そう!」

私のあげた特徴に、力強い頷きを返してくるイリーナ。
そうだよね、CV.諏訪部さんのツォンさんが好きなんだもんね。


「普段は堅物なのにふとした瞬間に見せる柔らかい表情・・・とかそんな感じの?」
「そう!!!」

首をブンブンと縦に振りながら、イリーナは宙を見つめてため息を吐く。
恍惚とした表情の裏で、果たしてどんな薔薇色の妄想が広がっているのだろうか。

レノはそんな後輩を横目で見ながら、ぼそりとつっこみを入れる。


「ツォンさんに夢抱き過ぎだぞ、と。つーかイリーナ、話弾み過ぎ」
「だだ、だって、休暇中じゃないですか。時間外労働はしないんでしょう?」
「そりゃそうだけどよ」
「女の子少ないんですよタークスって! だから話せる時に話しとかなきゃって・・・」

確かに、通常の女性社員ならまだしも、タークスには女性が少ない。
少し前のビフォアクライシスの時期ならば、女性も沢山所属していたのだが。

このままイリーナとガールズトークに花を咲かせたい気持ちもあるが、そろそろ私もユフィ捜索に加わらなければ。
そう思った矢先に、亀道楽の入り口が勢いよく開かれた。


「おお、ここに来ているというのは本当だったか!」

そう声を上げたのは、ブルーの軍服に身を包んだ神羅の兵士たち。
私は咄嗟にしゃがみ込み、テーブルの下へと隠れる。

タークス三人の視線を感じながらも、私はそそくさと退散させて頂いた。
神羅兵は融通が利かなすぎる。鉢合わせて気づかれでもしたら面倒だ。



するりと人を掻き分け、外に出る。

そこら辺を探し回るフリをしながら、ゆっくりダチャオ像でも向かうか。
そう思い立ち、キョロキョロと辺りを眺めながら山の方へと歩き出した。


あの虹色の芋虫・・・ジェジュジェミの群れには会いませんように、と祈りながら。






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