6-03
壊れてしまったタイニー・ブロンコで海を渡り、ロケットポートエリアと隣接した陸地へと上陸する。
孤立した島であるウータイエリアに降り立った私達が最初にしたことは、ロケット村に取り残された仲間たちと連絡を取る事だった。
宿屋でぐっすり眠っていたらしいバレット、ティファ、ナナキと、彼らと共にいたケット・シー。
宿の中で眠っていたからか、彼らが神羅の人間と鉢合わせることは無かったらしい。
連絡を取ったあと、クラウドが代表してタイニー・ブロンコを操ってもう一度迎えに行くといった算段だ。
目当てのタイニー・ブロンコが壊れてしまった今、もうルーファウスたちも新たな手段を練っている事だろう。
その間、私とエアリスとヴィンセント、そして新たに加入したシド。四人でまた休憩を取った。
それから幾ばくも経たぬうちに、壊れたタイニー・ブロンコで再びウータイエリアへと現れたクラウド。
しっかりと残りの四人も、ピンク色の飛行機の背にしがみついていた。
デブモーグリとケット・シーが必死にしがみついている様子は、なんとも心にキュンと来るものがある。
ようやく全員で合流し、さてここからどうしよう、と言ったその時。
「待った待った待ったー!!」
「うわっ、何だ、一体」
突然、草むらから躍り出てきた少女。
面妖な衣服を身に纏い、背中に大きな手裏剣を背負った彼女。私は確かに、彼女に見覚えがある。
「アンタたちさぁ、この辺じゃ見ない連中だね。もしかしてこの先に進むつもり〜?」
「ああ、そうだが」
「ダメダメ! この先ってチョー厳しいんだよ?そんな準備不足じゃああっという間にやられちゃうって」
彼女――ユフィは、私の姿に気づいていないらしい。
得意げな口調で、クラウドやバレットへと語りかけている。
が、彼女のあの下手くそな口車に乗せられる者が、果たして存在するのだろうか。
「だーかーらー、アタシが手伝ってやろうかって・・・」
「そんなこと言って、また何か悪さしようとしてるんじゃないの。ユフィさん?」
「えっ!! 何でアタシの名前・・・・・・」
突然、初対面だと思っていた相手に名前を呼ばれれば驚く筈だ。
両目を真ん丸に見開いたユフィは、私の顔をしげしげと見つめてから、震える指で此方を指した。
「あっ、ああああああ!! あんた、前にアタシのことボコボコにした・・・」
「その言い方は語弊があると思うんだけど」
以前騙し損ねた相手を覚えているというのは、良い事だ。それだけで同じ過ちを繰り返さずにすむのだから。
シドに続き、ユフィも私の事を覚えていてくれたことに嬉しさを感じていると、クラウドが私とユフィの顔を交互に見る。
「奈々、知り合いか?」
「前にね、森で迷ってた時に協力して脱出したの。ね、ユフィ?」
「う、うん、そう、そうそう」
クラウドの問いかけにそう答える。
なにも、嘘は言っていない。ユフィが森で迷っているところに私が出くわして、一緒に森を抜けたのだから。
ユフィも本当のことを言われてはたまらないと思ったのだろう、私の言葉にひたすらカクカクと首を縦に振っている。
まあ、彼女にはレノの追跡から救ってもらったという借りがある。意地悪するのはこの辺にしてあげるとしよう。
「それで、この先って何が危険なの?」
「えっ・・・ああ、ああ! それね」
ユフィはあからさまにホッとした顔で、先ほどの話に戻ろうとしている。
そんな時、彼女の背後から青い隊服を着た神羅の兵士が数人現れたのだ。
警戒態勢に入った私達と、何が起こったのかいまいち分かっていないユフィ。
「いたぞ! 捕まえろ」
「おう!」
神羅兵の声を聞いたユフィが、ようやく事態に気づいて武器を構える。
しかし神羅兵は、私達の顔をじろじろと見たのちに「・・・ん?」と訝しげな声を上げた。
「おい・・・こいつら、例の・・・ヤツじゃないぞ」
「どうする・・・?」
彼らの言う「ヤツ」という存在は、薄々心当たりがある。
大方、これからウータイで合う事になるだろうが・・・
ヒソヒソと相談する兵士を警戒しつつ、ついユフィに視線を向ける。
ここに居る全員が同じことを思っていたのだろう、全員の目線が彼女の方へと向いていた。
するとユフィは、焦りながらも首を左右に振りたくって否定した。
「違う違う! これはアタシとは関係ないって!」
「これ"は"? じゃあ他に心当たり、あるのね?」
「ぎくっ」
口で「ぎくっ」と言う人を、生まれて初めて見た。
ティファに言及されたユフィは、冷や汗をだらだらと流しながら目を逸らす。
彼女は本当に、嘘をつくのが下手な子だ。・・・根は良い子、ということなのだろうか。
こちらで茶番を広げているうちに、二人の神羅兵も結論を出したらしい。
再びこちらへと銃口を向け「いい、やってしまえ!」と叫び、発砲した。
「正当防衛サンダガ!」
「ギャアアアア!」
相手が飛び道具ならば、こちらも遠距離から一掃させてもらう。
天から降った大雷が地を穿ち、辺りはもうもうと濃い土煙に包まれた。
相手側から何の声も聞こえないことから察するに、先ほどの一撃でうまくノックダウンできたらしい。
「いったーい!」
土煙の中で、ティファの高い声が響く。
そちらに手探りで近づくと、ぼんやりと彼女の姿が浮かび上がる。
風が土煙を払っていき、徐々に視界がクリアになっていった。
「ティファ、大丈夫?」
「うん、少しかすっただけ」
腕の当たりを押さえたティファは、その白い二の腕についた小さな傷をムッとした表情で見た。
銃弾が少し掠ったらしい、皮膚が裂けて血が出てしまっている。
「ケアルするね」
「あら、ありがとね、奈々」
ティファの傷に手をかざしながら、ケアルの呪文を唱える。
すぐにキラキラと小さな光が出てきて、彼女の傷を癒す。
・・・・・・・・・癒す筈、なのだが。
「あれ、魔法が発動しない・・・?」
「魔力、使い切っちゃったの?」
「サンダガ一発でそんな事は・・・あっ!!!」
私は、心当たりを感じ取り、咄嗟にマテリアを装備していた腕を見る。
そこには六つの空洞があるのみ。マテリア穴が見えてしまっているということは、勿論そこにマテリアはついていない。
「マテリアが・・・」
「ああーっ! 私のも無い!」
私とティファに次いで、クラウドやバレットも順に声を上げ始める。
そしてもう一つ、ユフィの姿が忽然と消えていたのだ。
まさか、あの一瞬で全員のマテリアを奪って行ったのだろうか。
ユフィは詐欺の才能こそ無いが、スリの能力はまさに一級品なようだ。あまり、良い事ではないが。
「あの、おバカ忍者め・・・! とっ捕まえて今度こそ拳骨落としてやる!!」
「同感! 許さないんだから!」
マテリアが盗まれることを知っていた私まで、まんまと盗まれるとは。盗賊の小手でもつけてるんじゃないのか。
ユフィにはパーティ加入したら、敵から延々アイテムを盗む役を担ってもらおう。
私が拳を鳴らすと、その横でティファも殺気立ちながら同じようにパキキ・・・と骨を鳴らす。
「・・・あいつも災難だったな。盗んだ相手がアレでは」
「しっ、聞こえるぞヴィンセント」
「しっ」じゃない。しっかりと聞こえてます。
イケメン二人の失礼な物言いに、まずは彼らの頭に一撃お見舞いしてやろうかとも思う。
お前らだって盗まれただろう。と声を大にして言いたい。
「マテリアなしじゃ、ちょっと進めないし、ね? 追いかけよう」
ティファやバレットなどの殺気立つ面々をなだめながら、エアリスがそう言う。
すると彼女は懐からポーションを取り出して、ティファの傷に薬を振りかけた。
すっかり彼女の怪我の事を忘れていた。申し訳ない。
「それじゃあ、あいつが逃げた方に向かうぞ」
クラウドの声を合図に、私達は急ぎ足でウータイへと向かった。
街についてしまえば、もう彼女の行動は私の手のひらの上だ。
今のうちに「しめしめ」といった気分を存分に味わってもらおうではないか。
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