FF夢


 8-03




Side 【Cait Sith】


コレルにてバレット達がヒュージマテリアを奪取したその頃、コンドルフォートでもヴィンセント達の手によって神羅兵を追い返す事に成功していた。
進軍してくる神羅兵を倒し、コンドルフォートや子育て中のコンドルが住む巣を守った事への礼として、村人たちから渡された黄色のヒュージマテリア。今はユフィがそれをしっかりと抱きかかえている。

「いやぁ、ユフィさんの頑張りといったら! 流石ですわ!」
「あったり前でしょ! こ〜んなでっかいマテリア、神羅なんかに渡すハズ無いじゃん?」

マテリアの事になると誰よりも必死になるのがユフィだ。きっと今回も、誰より一生懸命に戦っていたことだろう。
コレル組が落ち着きしだい飛空挺で迎えに来ると言っていたため、ヴィンセント達はコンドルフォートの宿屋で少し休息を取ることにした。住人達の厚意により、宿を無償で貸してもらえることになったのだ。


宿屋の一室で一息ついていると、ケット・シーがヴィンセントとユフィに対して話しかける。

「実は、皆さんにお願いしたいことがありまして」
「…何だ?」
「ジュノンで暴れてたウェポン、覚えとります?」
「そりゃあ、忘れらんないよ。あんなの」

ユフィはティファのように間近でウェポンを見たわけではないが、それでもウェポンの恐ろしさはハッキリと記憶に刻み付けられているようだ。

「あのウェポン、まだあと4体おりまして…今こっちでは対策に追われてます」
「あんなのがまだ4体も? ヤバいじゃん!」
「確かに。あの時、大空洞から複数体のウェポンが飛び立つのを見たな」
「奈々さんが今神羅に協力しているのは、このウェポンをどうにかするためですねん。奈々さん、自分だけじゃ対処し切れん言うて、神羅の軍を利用してはります」
「なるほど」

ケット・シーの説明に、ヴィンセントが頷く。
通常モンスター相手ならば奈々は充分に強いが、相手がウェポンとあっては単身討伐など無謀にも程がある。
仲間と分断されてしまってはいるが、奈々なりに使えるものを最大限活用しているのだとヴィンセントは感心していた。彼女のこの「敵味方という区分を気にしない」という気性は、時に誰よりも合理的である。

「それにしたってですね、ウチも人手不足ですねん。奈々さんがウェポンの出現場所やら特性やらを教えてくれはって、大急ぎで討伐隊の編成を進めてますがね…」
「へぇー、でも神羅じゃん。兵隊、沢山いるんじゃないの?
「いやいや。ウェポン討伐隊っちゅうからには、ウェポンとまともに戦える兵士…つまり、ソルジャーが主になりますけど、そないに大勢いる訳ちゃいます。奈々さんも現場に行く言うてます」

てっきり司令塔をしているものと思っていたのだろう。ユフィは「はぁ!?」と非難めいた声を上げた。

「そこは止めるのがあんたの仕事でしょ!? アタシたちが一緒ならまだしも、神羅で奈々のこと、ちゃんと守ってくれるヤツなんて居ないじゃんか!」
「勿論止めましたけど、奈々さんが言って聞くような人じゃない事は知ってますやろ!」

ユフィが神羅に悪態をついているのを聞いていたケット・シーだったが、ふと浮かんだ疑問を口にした。

「そういえば、お2人とも奈々さんに対して怒ったり…してへんのですか?」
「怒る? 何でさ」
「…彼女がエアリスをはじめ、様々な人の死を知っていた事に関してか」

ケット・シーの質問を補足するようにヴィンセントが呟く。
すると、キョトンとしていたユフィがキッパリと「んな訳ないじゃん」と言い放った。

「だって、奈々はエアリスのこと知ってたからこそ1人でも追いかけて行ったんでしょ? 一生懸命守ろうとしてたじゃん。それとも、守りきれなかったことに怒るってこと?」
「勿論ボクも、奈々さんに対して怒るも何もありゃしませんけど。バレットさんやティファさんみたいに考える人も居てはるだろうなーと思ってましたんで」
「アタシは奈々のこと、敵だなんて思ったこと無いよ。多分、バレットとかティファも怒ってるワケじゃないと思うんだよね」

あっけらかんと放たれた言葉は、きっと奈々が何よりも嬉しく思う言葉だろう。
ヴィンセントもまた、ユフィの言葉を肯定するように語った。

「知っていて救えなかった。それが罪ならば、知っていながら行動を起こさなかった私の方が、余程罪が重いはずだ」
「もー、罪だなんだって考えすぎなんだってば! 確かに、もっとアタシ達を頼ってくれれば良いのに…とは思うけど」

少しだけ俯いたユフィが言う。その言葉には奈々への労わりが込められていた。

「てワケでさ、手伝いならいつでも行くよ! 多分、皆行くと思うし」
「ああ。次に会ったら伝えておいてくれ」
「ええ、皆さんのお気持ちも添えて、しっかりお伝えさせてもらいます」

ケット・シーがそう言った瞬間だった。彼が持っているPHSがピピピ、と呼び出しを告げる音を奏でた。

「ハイハイ、バレットさんやないですか。首尾の方はどうですか」
『おう! こっちは無事にマテリア手に入れたぜ! そっちはどうだ!』
「こちらも無事に済んだところですわ!」
『そりゃあ良かったぜ。もうすぐコンドルフォートに着くからよ、一回ミディールまで戻るとしようぜ』

互いの成果報告を済ませると、3人は素早く立ち上がる。
せっかちなシドが迎えに来るのだ。待たせると文句を言われかねない。

コンドルフォートの外に出た3人は既に到着していたハイウインドに乗り込み、クラウドとティファが待つミディールへと出発した。



***



神羅とのヒュージマテリア争奪戦が一段落し、ミディールへと到着した一行。
診療所に戻ると、クラウドと共に残っていたティファは相変わらず…いや、数時間前よりも重く暗い表情をしていた。

「クラウド、ずっと呼びかけてるけど、全然反応が無いの。先生も、今は様子を見るしかないって…ねぇ、このまま一生良くならなかったらどうしよう?」
「落ち着けよ、ティファ」
「私、どうすれば良いのか全然分からないの。奈々だったら治し方、知ってるかなぁ」

症状に改善の見られないクラウドと共に居たことで、ティファも精神的に追い詰められて来ているようだ。
力なく俯き、ここには居ない奈々に縋るような発言をしている。

「それとも…もう、奈々は戻ってきてくれないかも。私達、奈々に酷い態度取っちゃったし…」
「大丈夫だよ、ティファ」

胸に浮かんでは消える不安を口にするティファを元気付けたのは、ナナキだった。

「オイラ、思うんだ。奈々はきっと、オイラ達のことを嫌ったりなんかしないよ。理由はわかんないけど、そんな気がするんだ」

ナナキの野生の勘だろうか。彼は奈々の気持ちをしっかりと肌で感じているようだ。
明確に言葉にはできないが、彼女の惜しみない好意は分かる。だから大丈夫だ、とティファに寄り添った。

「奈々さんが戻られたら、ボクがしっかりお伝えしますよ」
「戻る? 奈々、また違うところに居るの?」
「ええ。奈々さんは今、アルテマウェポン討伐隊の指揮取りで大忙しですねん。何回か電話もしてみましたけど、全然出ぇへんし」
「そっか…奈々、1人でも頑張ってるんだね。早く会いたいよ。会って、ごめんねって言いたい」

少しだけ表情が明るくなったティファが、小さく頷いてクラウドを見る。彼女の表情にも僅かながら希望の色が見えた。

その時だった。
ほんの僅かに見えた希望の兆しを消し飛ばすかのように、あたり一面から激しい地鳴りが響いた。

「何だ!?」

ティファとクラウドを診療所内に残し、他の皆が外へと出る。
地響きがピタリと止んだかと思った次の瞬間、ミディール村の上空にアルテマウェポンが姿を現したのだ。

「ウェポンだと!?」
「ケッ、良い機会じゃねえか! ここで一匹ブッ倒しておきゃあ、アイツの負担も軽くなるってんだ!」

威勢よくスピアを構えたシドの言葉に頷き、そこに居る全員が武器を構える。
しかし、相手はウェポン。そこらへんのモンスターとは一味も二味も違うのだ。
戦闘開始した直後、アルテマウェポンは強力な技を放った。奈々がミーティングの時に注意を促していた、アルテマビームだ。
青い高密度のビームを広範囲に放つ攻撃で、威力が高い上に回避も難しい。

そんな攻撃をもろに受けた皆は、一撃にして全員が大ダメージを負ってしまう。
このまま攻撃を続けられてはまずい。と全員が思った時だった。
アルテマウェポンが突然空高く舞い上がり、ミッドガルエリアの方角へと飛び去ってしまったのだ。

「あかん、ミッドガルにあんなんが来たら大惨事や!」
「追いかけるぞ!」

傷の回復をも後回しにして、すぐさまハイウインド目指して走り出したシド達。
しかし、彼らが飛空挺に辿り着く前に新たな異変が起きた。

今度は地面が激しく揺れ始めたのだ。
立っていることすらままならない程の地震。彼らはつい最近、これと似たような事を経験したばかりだ。
北の大空洞で起きた激しい地震。あの時はみるみるうちに地面が割れ、クラウドと奈々が地中へと落下した。

今回もそうなったら…と、皆が嫌な予感を感じた。


「ティファ! 今すぐに逃げるぞ!」

バレットが、地の奥から響く轟音に負けないように大声を上げる。
だが揺れが一層酷くなり、地面がボコボコと隆起し始めたのだ。

間もなく診療所からクラウドを連れたティファが飛び出して来た、その時。バレット達とティファの間の地面がメリメリと音を立てて分断されてしまった。
普段のティファならばこの程度の地割れに足を取られることなど無いが、今は車イスに座るクラウドを連れている。
彼女は身動きが取れないまま、地割れに巻き込まれて落下してしまった。

「きゃああっ!」
「ティファ!」

バレットの声も虚しく、ティファとクラウドの姿はもう見えない。
2人を今すぐ助け出したい気持ちは全員にあったが、このままここに居ては全員が地中へと落ちてしまうだろう。

後ろ髪を引かれながら、地上に残った皆はミディール村の外へと走り出した。




地割れに巻き込まれたティファとクラウドは、地中を流れるライフストリームの中を落ちていた。
精神エネルギーの中で、大量の声や情報が頭に流れ込む。両耳を押さえても止むことのないそれに、ティファは気が狂ってしまう寸前だった。

その時、ティファの背中に誰かがそっと手を添えたような感覚がした。
ティファがそれに反応して「だ、れ…?」と問いかけると、どこからか『こっち、だよ』と優しい声が響く。
いつの間にか、ティファを取り巻いていた声や記憶の数々が止んでおり、辺りの光景もすっかり様変わりしていた。


宇宙空間のようでいて、現実味の無いその場所。ライフストリームと同じ色の空間に、ぽつぽつと足場が浮かんでいる。よく見てみると、そこはクラウドやティファに縁のある場所が断片的に存在している空間のようだ。
ニブルヘイムの町並み、星空の給水塔、それから、見知らぬ部屋の風景。
ティファがぐるりと見回すと、何故かクラウドが数人に分裂している事に気が付いた。

あまりに現実離れしたこの空間。ティファはこの場所が、クラウドの記憶が具現化した空間であると察した。
どういった原理でここにティファが存在できているのかは全く見当がつかないが、ティファはこの場所で自分にできることは何だろうか。と己に問いかける。


「クラウド、記憶を…自分を、取り戻そうとしてるのね?」

答えは返って来ないが、ティファはクラウドの方を見つめて「私にも手伝わせて」と力強く言った。

3人に分裂したクラウドは、自分の記憶が全て作り物なのではないか。といった不安を口にしている。
きっと今の彼は、自分の本当の記憶を取り戻したいと願っているものの「取り戻すにはどうすれば良いのか」「取り戻した末に、自分が望む結末ではないのではないか」といった恐怖に晒されているのだろう。

しかし、ティファならば。クラウド・ストライフという人物が実在したこと、彼がニブルヘイム出身のクラウドであることを知っている。
だからだろうか、彼女はどこか希望すら伺えるかのような朗らかな笑みを浮かべてクラウドの隣に立った。


「大丈夫よ、クラウド。一緒に取り戻そう」



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