8-02
Side 【Barett】
奈々や神羅ビル本社にいる面々がウェポンやらメテオやらの対策に追われている最中、ティファたちが捕らえられていたジュノン支部にサファイアウェポンが襲来した。
しかしスカーレットやルーファウスが準備していた魔晄キャノン【シスター・レイ】が功を成し、サファイアウェポンが上陸する寸前で見事に撃破することができた。
奈々が懸念していたティファとバレットの逃走も予定通りに上手く行ったようで、彼らはシドが乗組員ごと入手した飛空挺ハイウインドでミディール村へと訪れていた。ケット・シー経由で、奈々が「クラウドはミディールに居る」と教えたため、最速でミディールに到着することができたのだ。
村の人からクラウドと思わしき人物の目撃情報を聞き、彼らはミディール村の中心部にある診療所へと足を運んだ。
だが、現実は実に残酷だった。頼れるリーダーとの再会を期待していたティファたちが目にしたもの、それは重度の魔晄中毒になり自我を失ってしまったクラウドの姿だった。
せっかく彼と再会できると喜んでいた仲間達が、一瞬にして表情を凍りつかせた。
「そんな…ウソ…クラウド…」
ティファのか細く震える声が病室に響く。今にも泣き崩れそうな彼女に、医師や他の仲間達が「2人にしてやろう」と席をはずした。
クラウドとティファを残し、診療所の外に出た面々。
暗い雰囲気の中でヴィンセントがぽつりと口を開いた。
「彼は、回復するだろうか?」
「…正直言うと、生きているだけで奇跡に近い。彼は非常に重度の魔晄中毒状態でね、高濃度の魔晄に長時間浸かってしまったのだろう」
医師が深刻な面持ちでそう告げると、背後からひょっこりと顔を覗かせたレインが説明を付け足す。
「そもそも、神羅がエネルギーとして供給・使用している魔晄と、地中を流れる精神エネルギーとでは濃度が違いすぎるんだ。例えソルジャーとして魔晄への耐性があったとしても、回復の見込みは…」
ベラベラと話すレインが心無い一言を口走りそうになり、医師が「レイン君」と制止の声を上げる。
「気にするな。事実を話してもらった方が有難い」
「すまないね。しかし、命さえあれば可能性は決してゼロではない。彼の友人である君達は、彼の回復を信じて待っていてあげて欲しい」
回復の見込みが薄くても、彼は医師として最善を尽くすつもりなのだろう。力強い目でクラウドの治療を続けると断言してくれた。
「ね、ちょっと聞いていい? 一緒にさ、女の人居なかった?」
今まで黙り込んでいたユフィが医師とレインに問いかける。
クラウドと共にライフストリームの中へと落ちていった奈々が気がかりなのだろう。
「ああ、居たよ。2日ほど前に神羅の人たちとここを発ったがね」
「たしかにアレは、ソルジャーとタークスだったね。ミッドガルへ向かうと話していたなぁ」
医師の言った「神羅の人」という言葉に、バレットがピクリと反応する。
だが、彼が何かを言うよりも早くケット・シーが口を開いた。
「実は奈々さん、神羅に人質を取られてるんですよ。ご友人の命と引き換えに知識を提供せえ、言われて。今はボクの本体と行動しとります。ご自分の知識や見解を神羅に渡して、ミッドガルの市民を少しでも多く助けるために動いてくれはってます。裏切ったんとちゃいますよ」
「君達、彼女を疑っているのかい? 彼女はシロだよ。僕が以前神羅に居たとき、彼女は失血死寸前の状態で捕縛されていたんだ。その時から社長に気に入られてはいたけど…彼女が神羅ビルから逃げ出したあたりから、なんだかやたら執着されていたなぁ」
レインが語ったタイミング。それは押収された奈々の日記帳から、彼女が特別な知識を持っていると悟られた時の事だろう。
思わぬところから奈々の潔白を知った仲間達は、どこかホッとした表情をしている。
「ねえ、みんな」
静まり返っていた空間に、診療所の中から出てきたティファが姿を現す。
彼女の表情は暗く重いものだったが、何とか平静を保とうと努力しているのが伺えた。
「ティファ、大丈夫か?」
「うん…あのね、私、このままクラウドの看病をしたいの」
大切な仲間であり、唯一の同郷であり、ティファ自身がアバランチへと招きいれた存在。
ティファにとってクラウドは特別な存在で、加えてある種の責任を感じていることだろう。バレットたちもそんな彼女の思いを汲み取り「わかった、その方が良いだろうな」とひとつ返事で頷いた。
***
ティファとクラウドをミディールに残し、ハイウインドに戻った一行。
とは言え、北の大空洞には強力なバリアが張られ、今ではもはや神羅と戦う意味すらも無くしてしまった彼らには目指すべきものが無かった。
かと言って、このままメテオが落下してくるのをただ眺めている事などできない! とバレットが言う。
「ほんなら、情報ありますよ」
「おっ! 二重スパイだな!」
ケット・シーの言葉を心待ちにするバレット。彼のデリカシーが無い言葉に、ケット・シーは一瞬だけムッとした顔をした。
「スパイて…はぁ、もうええわ。ちょうど今ですね、神羅本社ビルで会議中でして。奈々さんも居てはります」
「何を話している?」
「メテオ対策の話なんですが、ガハハとキャハハがヒュージマテリアっちゅうドでかいマテリアでメテオをぶっ壊す言うてますねん」
あまりに突飛な計画に、シドが「随分と雑な計画だなァ」と呟く。
「発案があの2人ですからねぇ…そんで今しがた奈々さんがその案に猛反発中って感じですわ。メテオを攻撃した所で時間の無駄。あと、百歩譲ってメテオが砕けたとして、結局その破片が広範囲に降り注ぐだけですよって」
「そりゃそうだろうな。何考えてんだ、神羅の連中はよう」
もう、メテオに関しては「打てる手は全て打つ」という状態なのだろう。
「ただ、奈々さんはあくまで情報提供者として居てますんで、発言権が無…ああ、あきませんて、奈々さん!」
「どうした」
「奈々さんがガハハに資料だのコップだの投げつけてもうて、大喧嘩ですわ。ホント、神羅ビルに来てから今まで以上に手段を選ばんようになってますよ」
大方、ヒュージマテリア作戦などという無駄な作戦をするくらいなら避難準備の手伝いでもしろ! と怒っているのだろう。姿こそ見えないが、どんな顔で悪態をついているのかが手に取るように分かった。
シドやユフィがニヤリと笑みを浮かべ「やるねぇ」と小さく呟いている。
「ええと、奈々さんから伝達です。今んとこニブルヘイム魔晄炉のマテリアは既に神羅が回収済み、それからコレル魔晄炉に軍が向かっているそうですわ」
「コレルだと!?」
それまで静かに話を聞いていたバレットが立ち上がり、表情を曇らせる。
「ちょお待ってくださいね…ほう…あ、今奈々さんもろとも会議室から追い出されてしもたんですが、やっぱり奈々さん、大体ご存知なようで。コンドルフォートっちゅう所にも軍が向かってるらしいです」
コンドルフォートとコレル。二箇所を同時に攻められれば、こちらも二手に分かれて対応するしかない。
コレルへはバレット、シド、ナナキが。コンドルフォートへはヴィンセント、ユフィ、ケット・シーが向かうこととなった。
シドの操縦するハイウインドで、まずヴィンセント達をコンドルフォートへ送り届け、残りの3人でコレルへと急いだ。
コレルエリアの平地に飛空挺を停めて、岩山を登ってコレル魔晄炉を目指す。
ミッドガル周辺のように空がどんよりと暗くなってくると、間もなく眼前に魔晄炉が見えて来た。
「行くぞ!」
バレットがそう言って我先にと魔晄炉内部へと飛び込んでいく。しかし、彼が魔晄炉内に入ってすぐに中から「ガタガタ」という音が聞こえ始めた。
魔晄炉内に敷いてある線路上を、列車が滑走し始めた音のようだ。
バレット達が線路上にいることも構わず、列車はどんどんスピードを上げていった。
「あぶねえ!」
危うく正面衝突しそうになりながら、3人は横っ飛びで列車を避けた。
「見て2人とも! あの列車、大きいマテリアが乗ってるよー!」
ナナキがそう声を上げる。彼の視線を辿ると、たしかに列車の荷台にはガッチリと固定されたヒュージマテリアが積み込まれている。
しかし、列車は更にスピードを上げて走り去っていく。これでは、たとえナナキが全速力で走ったとしてもいずれは突き放されてしまうだろう。
「クソッ、少し遅かったか…」
「…いんや、そうでもねェよ。おめえら着いて来い!」
バレットとナナキを呼び寄せたシドは、列車が出て行った方とは逆…魔晄炉の内部へと向かった。
そして僅か数分後、中からはもう一台の列車が飛び出して来たのだ。
先ほど神羅の兵士が使っていたものよりもかなり古く、列車というよりは連結式のトロッコと言った方が正しいだろう。
「オラオラ〜! 追いかけるぜ!」
シドは不適に笑いながらレバー類をガチャガチャといじり、自由自在に列車のスピードを上げていく。その鮮やかな運転技術に、バレットが感心して声を上げた。
「よくこんな物まで操縦できるな」
「あん? こんなモン、テキトーだテキトー。触りゃ何とかなるってもんだ」
「ええー! 大丈夫なの?」
シドの適当極まりないコメントに、ナナキが悲鳴を上げる。
バレットは今の言葉は聞かなかったことにしたらしい。数秒黙ってから「もっとスピード上げてくれ!」と叫んだ。
しかし、適当に触って列車を動かせるのは、流石としか言いようがない。天性の才能と言う以外無い、シドの手腕が光り輝いていた。
列車は順調にスピードを上げて行き、ついに神羅の兵士達が乗る先行車の姿を捉えた。
「よーし、乗り移るぞ!」
バレット、ナナキ、シドの順で後続列車から先行列車へと飛び移る。
荷台にはモンスターが数匹いたが、バレットが先攻して危なげなく倒す。そして彼はそのまま先頭車両で列車を操縦している兵士に近付き「列車を止めやがれ!」と怒鳴りつけた。
「貴様ら!」
だがしかし、怒鳴りつけて素直に列車を停める連中ではない。3人ともそれはわかり切っていたため、しっかりと兵士を迎え撃った。
僅か一分足らずで兵士を倒した3人だったが、ナナキがあわあわと「運転する人が居なくなっちゃったよ〜!」と声を上げる。
「おいおいナナキ、このオレ様が居るだろうが。このままコレルに突っ込むような事ァしねえさ!」
そう言い返しながら余裕の表情でレバーをガチャリと動かすシド。その瞬間、列車はギャリギャリとけたたましい音を立てながら加速した。
「わ〜っ! 速くなっちゃった!」
「オイ! シド! 頼むから停めてくれよな!」
頭をかきながら「こっちだと思ったんだがよ〜」と呟くシド。
バレットとナナキは、目前に迫ったコレル村を見つめて「シドーー!!」と叫び声を上げている。
「うっせえなァ! 言うこと聞きやがれってんだ、このポンコツめ!」
シドが悪態を吐きつつ、レバーやらボタンやらを動かす。すると今度こそ、列車が一気に減速し始めた。
「シド! 早く停めて!」
「分かってらあ! あらよっ、と!」
ギイイイ、と嫌な音を立てながら何とか動きを止める列車。
その荷台では、緑色をしたヒュージマテリアがキラリと輝きを放った。
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