魔法少女とおにぎり

暖かい毛布に包まり息を吸うと、ふわりと煙管の匂いがした

マリン様が時々吸う煙管の匂いと少し似ていて
嗅ぎ慣れない匂いのはずだが、何故だか少し心が落ち着いた。


今日はご飯何にしようかな、マリン様に聞いてみよう
京子は、まだあまり働かない頭で冷蔵庫の中身を思い出す。

とりあえず起きなければ、とまだ重い瞼を開けると目に入るのは見知らぬ天井。
そして顔を横に向ければ椅子に座り本を読む見慣れぬ人物。


「あ、起きましたか」

見つめる視線に気づいたのか、鬼灯がこちらを見る。
低い声、そして鋭い三白眼にジロリと見られ京子は心臓が飛び跳ねた。
同時に寝惚けた頭が冴えてきて、ここが地獄だという事を思い出す。

少しだけゆっくりするつもりが、睡魔に負けてついつい寝入ってしまったみたいだ。


「すみません私、寝てしまって」


京子は掛けてあった毛布を脱いで起き上がる。



「構いませんよ、はしゃぎ疲れたでしょう」

「そ、そんなにはしゃいでましたかね…」


京子は閻魔殿に来るまでの事を思い出す。
見るもの全てが珍しく、確かに心踊らせていたのだが側から見ればそんなにはしゃいで見えたなんて…
まるで子どもみたいで恥ずかしくなった。


そして更に追い討ちを掛けるように、静かな部屋にグゥと腹の虫の鳴る音が響く。


「う……」


お腹が鳴ったのが恥ずかしくて京子は赤い顔を鬼灯に見られないように下を向く。

そういえばEU地獄を出てから、鬼灯様が道中に買ってくれたお団子以外何も食べていない
ふと、時計を見ると時間は夜の9時を過ぎていた。
確か、閻魔殿に着いたのが15時ぐらいだったから6時間近くも寝ていたようだ…お腹も空くはずだ。



すると、ばっちりお腹の音が聞こえていたであろう鬼灯は京子にお皿に乗ったおにぎりを差し出した。


「今日はもう食堂が閉まってしまったので、これで我慢できますか?」

「わぁ、これおにぎりですね?初めて食べます」

京子はアニメでしか見たことのない日本のおにぎりに目をキラキラと輝かせる。


お礼を言って鬼灯からおにぎりを受け取ると、ぱくりと一口食べる
お腹も空いてたのもあって初めて食べるおにぎりは格別に美味しく感じた。


「凄く美味しいです!」

「そうですか、良かったです」

「鬼灯様はハク様みたいですね」

「….褒め言葉と取っておきます。」

「おにぎりがこんなに美味しい食べ物だなんて…そりゃあ千尋も泣いちゃいますね」

「あれは美味しくて泣いてる訳ではないと思いますが」


なんて他愛もない会話をしていると、鬼灯は立ち上がり机の上の読みかけの本を手に取った。

「では、私はこれで。また明日起こしに来ますので」

「あの、本当に色々とありがとうございます」


起きるのを、本を読んでわざわざ待っていてくれただけではなくご飯まで用意してくれた鬼灯に心から感謝した。


「明日から頑張ってくださいね、仕事に関して私は厳しいので覚悟してください」

「が、頑張ります!」

厳しさに耐えられるだろうかと、一抹の不安がよぎったが最初から弱気ではいけないと思い鬼灯に精一杯頑張る旨を伝えた。

鬼灯は頷くと、最後にシャワールームの説明をして部屋を出て行った。

鬼灯が出て行った扉を見つめ、もう一つのおにぎりを頬張る
そういえばここでの仕事がどんな内容なのか全然聞いていなかったなと思ったが、明日になれば分かるだろうと美味しいおにぎりを食べる事に集中する事にした。


おにぎりを食べ終え、さっさとシャワーを浴びると明日に備え早々にベッドに入った。

毛布に顔を埋めると、ふわりと煙管の匂いが鼻をくすぐり
ふと、この毛布って最初からあったかな?と思った。考えてみるが思い出せず、それどころか先程長い昼寝をしたはずだったが既に瞼が重くなってきた。慣れない事ばかりで疲れたのであろう、京子は睡魔に身を任せ深い眠りへと落ちていった。




こうして京子の地獄での生活が幕を開けた。


[ 7/8 ]

[*prev] [next#]
[本棚へ戻る/topへ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -