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 窓から光る太陽の光が頬をきらきらと照らした。
 眩しくて少し身じろぐと、隣で眠る愛しい彼に手が当たった。
 起こしたかと思い彼の顔を見るが、長い睫毛のあるその瞳は固く閉じられていて、すーすーと寝息を立てていた。

 ――寝ていても、私を惑わすんだ。この人は。

 苦笑して布団を抜け出そうとすると、ぐいっと手をひかれた。

「……波音」
「凛……、起きてたの」

 凛は眠そうに目をこすりながら私を見た。

「夢、見なかった?」

 夢……?

 何のことだろうと一瞬考えてから、昨日のことを言っているのだと理解する。

「うん。凛がいてくれたから、だよ」

 照れながら微笑むと凛は目を細めて起き上がった。

「……紗音がいなくなってから、ずっと、一人だったの?」

 ばっと顔を上げる。
 凛は真剣な光を目に浮かべていた。
 くしゃりと顔を歪めた私を、そっと抱きしめる。温かな胸板が、私を包んだ。

「……うん、でも、母さんがたまに帰って来てくれるから大丈夫。……寂しかった、けど」
「そっか」

 凛は私が落ち着くまでずっと頭を撫でていてくれた。

 なんだか、夢みたいだ。
 彼が、姉さんじゃなく、佳南でもなく、私を見てくれたなんて。
 私を、好きになってくれたなんて。





 凛と朝食を作ってテーブルについたとき、ブルルっと携帯が揺れた。
 きたメールを開いた瞬間、身体が硬直する。

「波音?」

 凛が画面を覗き込んで、ぎりっと歯を噛みしめた。
 メールの差出人は凌空だ。

「……私、行かなきゃ」

 立ち上がると、鞄をとって玄関へ向かう。

「待て!」

 凛が腕を掴んで止める。

「何かあったら、絶対……」
「うん。連絡する」

 私の言葉に、凛は頷いた。





 凌空の家まで行くと、偶然部屋から出てきた彼の父親と遭遇した。

「……こんにちは」
「君が紗音さんかね?」
「……いえ、私は柏月波音といいます。紗音の妹です」

 頭を下げると、彼はふんと鼻をならした。
 聞いてた通り、厳格で嫌な雰囲気のする人だ。

「まあ、どうでもいいがな。あいつも、女に鼻を伸ばしてる暇があったら仕事をしろということだ」

 そう言い捨て、彼は家を出て行った。
 部屋に入ると、凌空が蹲ってた。

「凌空……」

 名前を呼ぶと、ばっと顔を上げる。
 頬は青く腫れあがっていた。

「その顔……」
「親父に殴られた。……くそっ」

 凌空は毒吐くと、がんっと机を蹴飛ばした。
 タイミングの悪いときに、呼び出されたのか。

 凌空は昔から、軽い虐待を受けていた。
 精神状態が良くないのも、そのせいで。
 最近は、クレッセントグループという有名な企業の子会社である彼の会社をつげと、会うたびに暴力を振るわれるらしい。

 ――だからって、同情はするつもりないけど。

「凌空、話があるの」

 姉さんのような話し方を止めて、じっと凌空を見つめる。
 今日は、伝えなくてはならない。たとえ彼が、どれだけ傷つくことになろうとも。
 私たちは受け入れなきゃならないんだ。
 私のいつもとは違う様子に気づいたのか、彼は動きを止めて私を見た。

 自分が暴力を振るわれた後だから、意味もなく私に手を出そうという気がないんだ。
 そこに安心して、口を開く。
 今日は、今日こそは、彼に真実を伝えて身を引いてもらおう。

「凌空っ! 私は、」
「なあ、それなんだよ」

 遮られた声に、彼の目線が私の首元に注がれてることに気づいた。
 冷ややかな視線と、低く響くその声に、ぞわりと鳥肌が立った。

 まさか……

 首を覆い隠すが、もう遅くて。
 凌空は顔を怒りに染めて、私に掴みかかった。

「……やっ」
「なんで、キスマークなんかつけてるんだよ!! てめぇ……今まで男といたのか!」

 気付かなかった。
 彼からの、凛からの愛しい印が、今は絶望の証だった。

「いや、やめて……っ」

 髪の毛を引っ張られて、床に押し倒される。
 そのまま腕を抑えつけられ、凌空が拳を振り上げた。

「いやっ……止めてっ!!」
「そのマークを、痣で消してやるよ」

 その声に、びくりと震えて、目を固くつぶった。

 いつもとは違う、この状況。
 凌空は父親に暴力を振るわれ、感情が高ぶってる。
 それに、こんな首元を全力で殴られたら……っ

 ――“殺される”

 恐怖が、身体を電流が走るように駆け抜けた。

 いや、いやっ!!
 誰か、助けて……っ

 姉さん……っ

 凛っ!!!!


 心の中で彼を唱えた瞬間、がっと音がして手首の圧迫がなくなった。
 最初は殴られたのかと思ったけど、痛みはない。
 恐る恐る目を開けると、凛が凌空の首を掴んでいた。

 いるはずもない彼の姿に、呆然と呟く。

「凛……?」

 呼んでも、彼は怒りに顔を染めていて、気が付かない。

「なん、だっ……てめっ……」
「なんだはこっちのセリフだよ。お前、今何しようとしてたんだ」
「……ぐっ……このっ……」

 凌空の呻く。
 凛が手の力を強くしているようだ。
 凌空は足で凛の腹を蹴ってそれを抜け出すと、凛に思いっきり殴り掛かった。
 それを、ひょいとかわし、振り返った凌空の顔をしっかりとした構えで殴り返した。

「……っ」

 凌空は倒れ、顔を抑えるが、凛は気にせず彼の身体を蹴飛ばす。
 歯を食いしばり、怒りを込めたその足は、凌空の血で真っ赤に染まった。

 さすがに、やりすぎだ。
 そう思って止めようとすると、彼らの前に黒い服を着た男性が立ち塞がった。

「そこまでだ、日向君」




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