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 私の家に着いても、私たちは無言のままだった。
 でも良かった。
 喋ったら、また想いが溢れてしまいそうだから。

 車から降りて、まっすぐと凛を見る。
 綺麗な顔。きりっとした目で私を見つめてくる。

 凛が転校してきたとき、初めて彼を見たとき。
 その瞬間、私もう彼のことを好きになっていたのかもしれない。

 もし、そうなら。

 私は、凛が波音を好きになる前より、波音が凛を好きになる前より、一番初めに、凛を好きになったんだ。

 胸に手を当てる。
 それでいいや。
 私はそれで満足。

 もう二度と触れられないかもしれない、学校で、また苦しいくらい触れ合うかもしれない。

 彼の手を、そっと掴む。
 その手が小刻みに揺れてて、私の手が震えていることに気づいた。

「佳南、」

 私を呼ぼうとした凛に、しーっと指を立て、止める。
 手をぎゅっと握って、温かみを感じる。

「よしっ」

 やがて、そう口に出して顔を上げる。
 凛の顔を見て、にっこりと笑った。

「凛」
「ん?」
「……好きだったよ」

 凛が目を見開いたのを、ふふっと笑って見つめる。

 ――好きだっ“た”

 この言葉に込めた意味に気付いたのだろうか。
 凛は、目を細めた。

「ああ、ありがとう」
「うん……。波音の様子、何かあったら私も連絡するから」
「頼む」

 任せなさい、と頷いて踵を返す。
 一歩進んだとき、「佳南!」と、凛が私を引き留めた。

「なに?」

 振り向かずに、聞く。

「…………いや、なんでもない」
「そう? じゃあね」

 それ以上そこにいたくなくて、今度は走って家の中に入った。
 扉を閉め、呆然と立ち尽くした。

 しばらくして、車の遠ざかる音が聞こえて、それが完全に消えたとき。
 どんっと、大きな音を立てて扉に寄り掛かった。

「う……っ、ぅうっ……」

 今まで堪えていた感情が、堰を切って溢れ出した。

「わああああっ……あぁああっっ!!!!」

 喉から声が漏れ出て、涙が次々と流れてくる。
 それを手で何度も拭いながら、ずるずると床にへたり込んだ。

 一緒に、いたかったよ。

 美沙とも。

 凛とも。


 好きだよ、大好き。愛してる。
 失恋が、こんなに悲しいものだなんて知らなかった。

 凛は、ああ言ってたけど、凛に好きだなんて伝えて傍にいてもらわなかったら、こんな好きにならなかった。

 後悔、とはちょっと違う。

 凛は、もう私の家に恋人として来てくれない。
 ご飯も私のためだけに作ってくれない。
 一緒に過ごすこともできないし、これから一緒にいることもないだろう。

「うっ、うっ……」

 ……一緒に、いたかった。



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