　もっと、

「もっと早くに、凛に会いたかったよぉっ……」
「佳南……」

　泣き崩れた私を凛が悲痛な表情で見つめた。
　そんな顔、しないでよ。
　余計惨めじゃない。

「凛が、波音や紗音さんと出会う前に、会って、私のこと好きにさせれば、良かったのかなあっ……」

　凛にこんなにも想われてる紗音さんや、凛とした強さを持つ波音。
　彼女らよりも早く、凛に会って、親しくなっていれば、なんて。
　どうしても思ってしまう。

　凛は、大声で泣く私に、困惑しているのかな。
　涙で前が全く見えないけど。
　困らせてるよね。やっぱり。

　だけど、止まらないんだ、想いが。
　好きで好きで、仕方ないんだ。

　本当は、凛がこのまま私を好きでなくても、傍にいてほしい。
　だけどそれじゃ、私は前に進めないから。
　弱いままだから。

「ね、凛」
「うん？」
「……波音のこと好き？」
「……ああ」

　少しの沈黙があって、彼は頷いた。
　心が引き裂かれる思いだった。

「紗音さんより？」
「……ああ」
「そっか」

　良かった。私の予想が、外れてなくて。

「凛、波音のこと、助けてあげて」

　涙が止まらないまま、かすれた声で言う。
　ああ、せっかくかっこいいこと言おうとしてるのに、かっこ悪いなあ。
　せめて、愛しい彼の顔が見たけど、見れないや。
　でも、それも、いいのかもしれない。

「前会った時、波音怪我してたの。多分、リクにやられたんだと思う」

　凛が息を呑むのがわかった。

「波音は、強くて、誰にも言わないから。……多分私や他の人が手を貸しても、辛いだけだと思う。でも凛だったら、話は別」

　好きな人に助けられたら、それだけで、とてつもなく嬉しい。
　紫蘭の倉庫から凛が私を助けてくれた時のように。
　手を伸ばすと、凛はすぐ近くにいた。
　涙を拭って、彼の顔を見る。

　ああ、好きだなあ。

「……好き」

　思わずつぶやくと、凛は苦しそうに顔を歪ませた。
　ああ、そうだった。この言葉は、彼を苦しめるだけだった。

「佳南、ごめん」

　手が、震えた。
　何よ、謝らないでよ。

「俺はやっぱり、波音ちゃんのことが好きだ」
「……うん、知ってる」
「だけど、俺たちの関係を、間違いだったなんて、思うな」

　顔を上げた私に、凛は優しく微笑んだ。

「俺は佳南と出会ったことで、救われたよ」
「え……？」
「つらいとき、君を見てるだけで、元気になれた。ありがとう……っ」

　ああ、もう。
　なんでそういうこというの。
　いっそのこと、酷く切り捨ててくれればいいのに。

　――なんでもっと好きにさせるんだよ。

「馬鹿」

　ありがとう、なんて。
　それは、こっちのセリフだ。