――ばん!

「あ、ごめんなさい」

 誰かにぶつかって、謝ろうとすると、その人は私の肩をがしりと掴んだ。

「佳南っ!!」
「……り、ん」

 凛は私の顔を見て目を丸くする。

「何があったんだっ!」

 私の様子に少しの怒りを混ぜた顔をする彼に、胸が苦しくなった。
 凛は怒ると、口調悪くなるよね。
 私、知ってるよ。

「どうして?」
「どうしてって、佳南がメールしたんだろ」

 凛が携帯の画面を見せる。
 そう、だった。病院を出る前に、迎えのメールを送ったんだ。

「で、何があった?」
「……美沙に会ったの」
「美沙ちゃんに?」
「うん。絶交、してきた」
「…………」

 無表情で言う私に何かを感じたのか、凛は黙って泣く私の背を擦った。

 私、何で泣いてるんだろう。
 美沙と絶交するのが嫌?
 ならしなければ良かった。

 ううん、そうじゃないよね。
 今、美沙を許したら、私は前に進めない気がする。
 だってそんなことをしたら私は多分、人の顔色を窺うようになってしまう。

 これでいいんだ。
 もう、私美沙とは笑いあえないんだ。

 大好きな人を一人、私は失った。




55