2 転校生が来たのは、先週の出来事だった。 驚いた。この星蘭学園に、転校だなんて。 しかもとんだイケメン。案の定女子が喰いついた。だから今日も、日向凛という男の周りには数人の女子がいる。 ――あーあ、あんなに必死になっちゃって。 馬鹿馬鹿しいとばかりに立ち上がる。 それを合図にして、親友の美沙が話しかけてきた。 「佳南、学食行こー!」 「あ、うん」 「なーに? そんなに熱心に日向君見つめて。やっぱり佳南も気になるの? 彼のこと……んぎゃ!」 にやにやと言った美沙にチョップをお見舞いする。 「んなわけないでしょ! ただ、みんなが馬鹿だなって思っただけ。もうすぐ定期考査があるのに、あんなはしゃいで」 「あー、ね。でも、たまにはこういうのもいいじゃない。うちの学校華やかなことなんて全くないんだから」 美沙の言葉に、もう一度日向凛を見る。 群がる女子達に天使のような笑みを返しながら、彼は前の席に座る女子に声をかけていた。 ……あれ、柏月さん? 柏月さんは日向凛に話しかけられると、うっとうしいと言わんばかりに顔を歪めながらもどこか楽しそうに接した。 「へえ、柏月さん日向君と仲いいんだ。意外」 驚いたように言う美沙を睨む。 「んなわけないでしょ。忘れものしたとかそんなんじゃないの。あんな勉強しか取り柄がないような地味女」 「はいはい、さすが校内一の美少女さんは違いますね。でも、なに? やっぱり日向君のこと気になるんじゃない」 歩き出した美沙に小走りでついていきながら、からかうような口ぶりにむっとする。 「だから、そんなんじゃないって! ただ、馬鹿校から来た奴に浮かれて、ひっついて、そんな奴らにむかついただけ」 「――あれ? もしかして俺のこと言われたりしてる?」 「え……うわっ!!」 後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。 そこにはニコニコとさっきの天使のような笑みを浮かべている日向凛……と不愛想に突っ立っている柏月さんがいた。 「日向君と柏月さん! どうしたの? 二人も学食?」 美沙が目を丸くして問う。 「そうそう。二人も? なら俺たちも一緒していい?」 笑顔を崩さない日向凛に私はいらいらとしながら睨みあげる。 「なんであんた達と一緒に昼食をとらないといけないのよ。私の時間を壊さないでくれる?」 「ちょ、ちょっと佳南ー! あ、日向君と柏月さんごめんね。この子、ちょっと気が強くて……え」 美沙の言葉に彼女を睨みながら反論しようした私は、手の感触に寸前まで気づかなかった。 目を丸くして言葉を切った美沙を不思議に思って正面を向くと、日向凛の顔が至近距離にあった。 「なっなっなっ……」 日向凛は私の手を掴み、片方の手を右肩において私に顔をぐっと近づけている。 思いがけない行動と、色っぽく笑う彼に動揺して、声にならない声が出る。 それに、彼はおかしそうに笑うと顔をもっと近づけた。 蜂蜜色の髪がさらさらと頬にかかる。 「……佳南ちゃんっていうの? 君も、波音ちゃんに負けないくらい可愛いね」 耳元で囁くように呟かれたその言葉に真っ赤になって彼を突き飛ばす。 「なっ!! 当ったり前でしょっ!! そ、そんな女と一緒にしないで!!」 そんな女扱いされた柏月さんが眉を顰めるが、気にしないで美沙を引っ張る。 「うわあ、佳南!?」 「行くよ!! 誰がこんな破廉恥男と一緒に昼食食べるか!!」 |