「もう暗くなってきたね。俺、夕飯作ろうか?」

 勉強も一息ついたところで、凛がそう言って立ち上がった。

「あ、じゃあ私も、」

 手伝う、と言おうとして、凛に遮られる。

「いいよ、俺一人で。佳南鈍くさいし」

 笑いを含んだその言葉に、ムッとした。

「私だって料理くらいできるもん」
「玉ねぎ切ってた時目が痛いって言ってそのまま泣いて駄々こねたのは誰だっけ?」
「あーっ!!!」

 大きな声を上げて、凛の口を塞ごうとする。
 ばっと波音を見るときょとんとしてて、ほっと息を吐いた。

「も、もう! 波音の前で余計なこと言わないでよ!!」
「ははっ、ごめんごめん……」
「は、波音!? 今のこと、絶対にクラスのみんなに言わないでよね!!」
「え? 今のことって?」
「え? だから……」

 そこまで言って、もう一度波音の顔を見る。波音の顔はにっこりとしていて、後ろに悪魔がついているような気がした。
 涙目になって、波音に掴みかかる。

「も、もうっ!! 面白がるんじゃないわよっ!!」
「あっははっ、ごめんごめん!」

 目尻を下げて愉快そうに笑う波音に、私と凛も吹きだした。

 ――波音を呼んで、良かったと思った。





「でもさ、佳南と凛、ホントラブラブだね」

 結局凛一人で夕飯を作ってもらうことになって、波音と二人になったとき。
 波音が私にひそひそと言ってきた。

「どうして?」

 ぴきっとヒビが入るような感覚に耐えつつ、普通を装って尋ねる。

「ふふっ、ずっと一緒にいた夫婦みたいに、息がぴったりなんだもん。ちょっと妬いちゃうよ」
「そう、かな……?」

 しろどもどろに言った私に首を傾げつつ、波音は頷いた。

「で、でも、波音は嫌じゃないの? 凛のこと、好きなんでしょ?」
「……そう、だね。嫌かなあ」

 困ったように笑いながら言う。

 やっぱり、波音は、まだ……。

 俯いた私に、波音はでも、と呟いた。

「私、佳南のこと大好きだし。凛のことも大好きだし。そんな大好きな二人が一緒にいるとこ見ると、逆に嬉しかったり、するんだよ? 佳南には凛が必要だもん。おかしい、かな?」

 私は波音に抱き着いた。

「おかしくない。おかしくなんかない!」

 嘘ばっかり。

「どうしたの佳南、私のことは気にしないで?」
「……めん」
「え?」
「ごめんね、波音」
「……もう、何言ってるのよ。謝らないって、佳南が言いだしたんじゃない」
「そう、だったね」

 凛が私に微笑むたびに、苦くなる波音の表情を、私は見逃してない。



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