「凛、佳南を病院に連れてって」 「でも、」 「早くしてっ!!」 下を向いて、唇を噛みしめる波音の苦しみと重い覚悟を感じたのだろう。凛は渋々頷いた。 私の元へきて、鎖を外し、そっと抱きかかえる。 久しぶりに感じた、その温かさは、寂しいものだった。 倉庫から出て、凛がふいっと振り返る。 その時、 私は、 見てしまったのだ。 彼の目に浮かぶ、 少量の恋慕を。 * ――――――― ―――― 眩しくて、清潔感のある薬品の匂いが鼻を刺す。 ここは……、と思って、ああ、私病院にいるんだと納得した。 がらがら、と扉が開いて、凛が入ってきた。 「佳南ちゃん、起きたんだね」 良かったと言いながら、傍の椅子に腰かけた凛は、私の様子を見ながら口を開く。 「傷は、数週間で治るって。妊娠の心配もないって」 「え?」 妊娠……? そうだ、私。 紫蘭の男たちに、 「い、や……」 「佳南ちゃん?」 「いや、やめて、触らないでっ!!」 男の手が、身体に、這いずり回る。 「いやあああっっ!!」 「佳南ちゃんっ!!」 叫んで、いやいやと腕を振り回す私を、凛は抱きしめた。 ごめんね、と、苦しそうに謝る凛に、だんだん我に返っていく。 「俺のせいだ。俺のせいでっ……」 「なんで……、なんで? 凛のせいじゃない、よ。私が、私が……――っ」 また思い出してしまう。 なんて弱いんだろう。私は。 「もういい、もういいから」 そして、縋ってしまう。 「怖いのっ」 「うん」 「傍にいて……、一人が、怖いの! 傍にいてよっ!!」 「……ああ」 なんて、馬鹿な私。 「私、凛のことが好き」 「――っ!」 目を見開く凛を、睨むように見つめた。 「私のそばから、離れないで」 凛の優しさにつけこんだ。 驚いている凛の首に手を回し、唇を重ねた。 やがて、凛の震えた手が、背中に回った。 こんな最低なキスでも、あの男たちとするより、ずっとずっと甘い。 ――その日から、私と凛、波音とリクは、付き合い始めた。 |