「ぅ、ぅ……」
「おいカナ、飯食えよ」

 リクに渡された、コンビニ弁当のようなものを払ってぶちまける。
 それにリクは私の腕を掴んで、頬をひっぱたいた。

「っ……」
「食えっつってんだよ。死なれたら困んだよ」

 簡易ベットに、足だけつながれた状態で座っている私の口に、彼は落ちたご飯を無理やり詰め込んだ。
 苦しくて、ごほっごほっとせき込むと、吐き気がして胃液を吐き出してしまう。

「はあ……、どうっすっかな」

 その声に、涙がこぼれ出た。

 この部屋には、時計がないから、どれくらい経ったかなんてわからない。
 でも、あの日、波音や美沙、凛と笑いあっていた日々が、すごく、すごく昔のように感じられた。

 こうやって、解放された今でも思い出す。
 男の怒鳴り声。私を触る無数の手。気持ちが悪い感触。嫌悪感。痛み。
 一回思い出すとそれが引き金になって体ががたがたと震え出した。

 だけど、一番つらいのは、

 ……私、聞かれたこと、全部喋った。

 最初に聞かれたのは、凛の本名。
 そして、波音の容姿に、二人の関係。日常生活での、様子。
 自分の情けなさを、ありありと痛感した。
 二人はたぶん、私のせいでひどい目にあう。

 ――『あの子は私の友達』

 ――『凛が好き』

 あんなに大切だったのに、屈辱という言葉も、ずったずたに引き裂かれて、心がどん底に落ちたとき、
 私は思ってしまったんだ。

 なんで“あの二人”のために、“私”がこんなに苦しまなきゃいけないんだって。

 私は、最低だ。

『対して努力もしてないことだけに天狗になって』

 お母さんの言葉がわかった。
 逆、だったんだ。

 なんで“私みたいな奴”のために、“あの二人”が苦しまなきゃいけないんだ。



 また吐き気が襲いかけてきたころ、外が騒がしくなった気がした。
 この部屋には数人の幹部と現役の総長、リクがいる。リクが目くばせすると、一人の幹部が様子を見に行こうとその場を立った。
 扉に手をかけると、ぼんっと音を立ててその扉と幹部がが吹っ飛んだ。

「なっ!!」

 部屋にいた者全員が扉を投げ飛ばした人物に、驚き目を見開いた。
 私も同じで、呆然とその人を見た。
 ここまで来るのに、相当な紫蘭の人がいたはずだ。

 ――それを、たった一人で倒してここまで来たの……?


「凛……」

 ちらほらと、かすり傷のようなものをしている凛は、ぎろっと目玉が飛び出んばかりの血走らせた目で部屋を見渡した。
 ゆっくり、沈黙が漂う中、凛の目が、私をとらえる。

「っ、いやっ!」

 私は、半裸状態の身体を手で覆って隠した。

 彼には、見られたくなかった。こんな、穢れた傷だらけの私の姿、なんて。
 腕や足首には、長時間縛られていた鎖のせいで赤く皮がめくれていて、
 顔は、何度も殴られたせいで真っ赤に腫れあがっている。
 身体や、胸は男たちのせいで痣が青黒く変色していて、ベットには、私がこぼしたご飯や水が散らばっていた。

 ――死んじゃいたい、そう思った。

 俯いて体を震わせる私の耳に、ぎりっと歯を食いしばる音が聞こえた。

「おいおい、示したのは明日だろ? ちょっと気が早ぇんじゃ――っ!!」

 がんっと音がして、顔を上げると、凛がリクの顔面を思いっきり殴っていた。
 それを合図に他の幹部たちが一斉に彼に殴りかかる。

 それは、一瞬だった。

 紫蘭の男たちに引っ張られつつも、確実に相手の急所を狙って数撃で落とす。
 叫びかかりながら掴みかかる男たちに、凛も大声で叫び声をあげていて、
 始めてみる凛の喧嘩が、私を守ろうとしてくれてる姿が、

 本当にかっこよくて、辛くなるくらいうれしかった。



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