USBに入っていたのは、一つの音源だった。
 それを再生して聞いた私は、どん底に落ちていく気分に陥って地面に崩れ落ちた。

 震える手で電話を掛ける。

『……波音ちゃん?』
「凛……私のせいで、私のせいでっ……」

 泣き崩れる私に、凛の優しい声が響く。

『落ち着いて、波音ちゃん。なんかわかったんだね。今どこにいるの?』
「私の、家……」
『すぐ行くから』

 焦った様子で来た凛に、USBを見せる。
 今日、紫蘭の幹部に会ったことと、私が姉さんのふりをして凌空と付き合っていたことを述べると、凛は憎々し気に顔を歪めた。

「だから君は、いつもあんなに……っ! 紫蘭の奴ら……!」
「それで、佳南がっ、佳南がっ!!」

 震える手で、USBの音源を再生する。

『いやああああああああっっっ!!』

 そこから聞こえてきたのは、佳南の絶叫。
 私は口を覆った。凛は驚きで目を見開いてる。 『お願いっ!! やめてっ、やめてよぉっっ!!!』
『だから、さっさと吐けっつってんだろっ!!! この男の名前はなんだっつってんだろ!!』

 怒鳴り散らしている、凌空の声。

 佳南の様子と、かすかに聞こえる男たちの荒い息で、何をされているかは容易に想像できた。

『いやあっ!! 知らっ、知らないわよっ!! あっ、いやあああああああ!!』

 やがて、

『ごめ、うっ、ごめん、なさいっ、うっうっ……』
『この男は?』
『日向、凛……です……』

 涙声の佳南の声。あの強気な彼女からは想像できない弱々しい様子に凛がぐっと拳を握りしめた。


『なんで星蘭にいる!?』
『知らない、でっ、いやっ、本当に知らないのっ!!』

『柏月紗音という女を知ってるか?』
『えっ!……かしわ、づき……?』
『リクさん、そっからは、俺がやりますよ』

 斉藤の声がして凌空が出ていく音がした。

『柏月という名字の奴がいるだろう、そいつは、俺たちの姫の妹なんだ。外見、教えてくんね?』
『誰が、あんたなんかにっ!! あの子は私の友達なのよ!!』
『はぁ、元気な子は困ったなあ』
『やっ、近寄んないでっ! いやああああああっっ!!』

 涙が、出る。
 友達。
 傷つけたのに、私。
 まだ、彼女は友達だと思ってくれている。

 なのに、私は?

 私のせいで、こんな……


 お腹から、何かがこみ上げてきて、うっと唸る。
 慌ててトイレに駆け込むと、口の中にたまった胃液を吐き出した。
 涙が絶え間なく零れてきて、息をするのもつらい。

 リビングへ戻ると、音源は止まっていて、凛は力いっぱい目を見開いてUSBを睨みつけていた。
 そのままUSBをゴミ箱へ放り込むと、噛みしめた唇から血が流れた。

「凛、だめっ!」

 思わず抱きしめて、それを止める。

「許せねえ……っ!!」
「どうしよう、どうしようっ! ねえ、佳南は? 佳南、どうなって……っっ!」
「行くしかねえ、多分、今は何もされてないはず……っ!!」

 苦虫を噛み潰したように言う凛に、顔を覆う。

「私がっ、私が凌空とちゃんと向き合って、姉さんのことも話していればっ!」
「波音ちゃん……」

 膝をついた私に、凛はしゃがんだ。

「ごめん、ごめん凛。貴方のことも、巻き込んでっ、私、私っ」
「波音ちゃん、今は後悔しても仕方がない。あいつらは明後日って言ってたけど、明日にでも行こう」

 私は、深く頷いた。

 それに、と凛は言った。

「俺は、巻き込まれたとは思ってない。俺のテリトリーに踏み入れたこと、紫蘭には後悔してもらう」

 彼の力強い言葉に、厳しいとわかっていても、私は頼り切るしかなかった。




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