その次の日、凛は学校を休んだ。
 最初は凛も行方不明になったんじゃと一瞬焦ったけど、携帯に灰狼町に戻ると連絡が入っていて安心した。

 私にできることが、何もないのが、悔しかった。
 取りあえず、私も少しでも探ってみようと、下校時佳南と私の家へ続く道を歩いていた時だった。

「やあ、久しぶりだね、妹ちゃん」

 いかつい形相をした男に話しかけられ、身を固くする。

「……っ、誰ですか」
「おいおいっ、ひどいなあ。俺のことを忘れたのかよ」

 ……忘れてなんかいない。紫蘭の元幹部の一人、斉藤智樹。

「そんな変な髪型して、眼鏡かけて、まるで別人だから、今まで気づかなかったけどよぉ」

 腕を掴まれ、眼鏡をパシッと払われる。

「やっ……」

 顎を掴み、斉藤はにやにやとした笑みを浮かべた。

「姉譲りのその美貌は隠せねえってもんだ」
「私に、何の用……?」
「そりゃあねえぜ。わかってんだろ? うちの元総長様がご執心だって」

 歯を食いしばる。私は思いっきり手を払って彼から距離を取った。

「姉さんは、死んだ。二年前、行方不明になったとき、殺されてたのよ!!」
「えぇ、そんなの初耳だぜ! 隠してたのか?」
「あんた達が殺したのよ!! 姫を守るとか言って、嘘ばっかり」
「いやいや、それは自業自得だろう。あいつは俺たちを裏切った。そんな覚悟もあっただろ」

 死んだ、と聞いても目を開きつつ、にへらと笑った斉藤にどうにもならない怒りがわく。

「じゃあもう私に関わらないでよっ!! 姫であった姉さんはもういないのっ!! 関係ないでしょ!!」
「って言ってもなあ」

 斉藤は頭をかきながら困ったように笑った。

「結局、どっちでもいいんだよなあ」

 悔しさが、怒りが、心の中に募る。
 聞きたくないって体が全力て拒否する。

「姫に似てるあんたが、また、姫のふりしてくれればな」




 ――あの時ほど、“自分”には魅力がないと思わされたことはなかった。





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