14 - Hane's perspective -


『――おかけになった電話番号は』

「やっぱり、出ない」
「佳南ちゃん?」
「うん」

 携帯を見つめて、ため息を吐く。
 昨日、佳南に勉強を教えてもらっているとき、聞かれたのだ。

 ――凛が好きか、と。

 それに私は、気付かされた。
 あの儚い笑顔。私は私だと認めてくれたこと。
 私に対する無償の優しさ。

 凛のそういうところが、好き。
 凛が、好きだって。

 凛は姉さんを想っていて、こんなの言いふらしても仕方がないと思ったけど、佳南には話そうと思った。
 高校生になって、初めてできた、友達。
 気が強くて、自分を持ってて、だけど、優しい。
 そんな、大切な友達。

 でも、

『私、帰るね』
『え、でも、』
『うっさいっ!!』

 怒らせてしまった。

 最初は、なぜかわかんなかった。
 でも、彼女も私と同じ気持ちだったということに一晩考えて気付いた。

 気付いて、すぐ電話したけど、佳南は出なかった。
 嫌われてしまったかもしれないって思った。

 だって、最低だ、私。

 佳南の気持ちを、全く考えてなかった。
 あのとき、少しでも、佳南だって凛が好きかもしれないって思えていたら。
 彼女を傷つけずに済んだかもしれない。

 謝っても、また彼女を傷つけてしまうだけかもしれないけど。
 学校に行ったら、ちゃんと謝ろうと思った。

 でも佳南は、学校に、来なかった。


「あれ、三日月さんがいませんね」

 担任の須藤先生が、首を傾げる。
 連絡も入っていないのだろう。
 私は青ざめた。
 もしかして、あのことで、ショックで学校に来ていないとか……。

「佳南ちゃんが休みなんて、槍でも降るなあ」

 そうやって笑う凛は確かに、前と比べてちゃんと佳南のことを見ていて。
 凛に言おうか迷ったけど、言えなかった。
 たやすく言っていいことが迷ったし、私自身が怖かったんだ。
 想いを告げたら、多分凛は私と関わらなくなる。

 それが、怖かった。

「ねえ、凛。佳南のこと、どう思ってる?」

 何気なくを装って聞いてみた。
 自分がどういう答えを望んでいるのかもわからなかった。

「んー? 面白い子だなって思ってるよ?」
「面白い?」

 佳南は、面白いだろうか?

「うん。笑って、怒って、照れて、毎日を頑張って生きてる。そういうとこがすごく可愛いなぁって」
「そ、っか」

 それを聞いたら、佳南、なんていうかな。
 顔を真っ赤にして凛に掴みかかって、それを凛が笑いながらあしらう図が容易に思い浮かんだ。
 うん。凛と佳南は、お似合いだ。

 私は黒い感情を押し込めてそんな言葉を心に描いた。


 ――だけど、私の考えが、勘違いかもしれないことに気が付き始めた。


「今日も、佳南ちゃん来てないの?」

 登校してきた凛が眉を寄せる。
 私も顔を暗くさせて、頷いた。

「うん。もう、三日も来てない。どうしたんだろう……」





「昨日から、家に電話をしてるんだけどね。三日月さんのご両親は忙しくて、電話に出ないんだよ」

 須藤先生にそう聞いて、私たちは顔を合わせた。

「三日月さんは、家にいないんですか?」
「それがね、ご両親によると、三日前から家に帰ってきてないって」
「っ!」

 それって、

「行方不明ってことじゃないですか!?」

 凛が顔色を変えて、須藤先生に掴みかかる。

「それなら早く届けを出さないと!」
「僕もそういったんだけど、ただの家出だと思うから面倒なことはしないでくれってご両親が」
「そんな、三日も帰ってこないでただの家出なわけ……」
「僕たちもそう思うんだけどね、こればっかりはどうしようもできないんだよ」

――一週間この状況が続けば、僕が教育委員会に相談して、届けをだすよ。

失礼しました。と言って職員室を出る。

私も凛も唇を噛みしめた。
言わなくてはと思ってぽつりと呟く。

「佳南がいなくなる三日前の前日、私達、一緒にいたの」

凛は目を見開いた。

「いつもみたいに勉強教えてもらってて、だけど、ちょっとしたきっかけで、喧嘩になっちゃって」

少し違うけど、だいたいは、合ってる。

「それで、私佳南を傷つけるようなこと言っちゃって。それで、佳南、家飛び出して」

涙声になった私を凛が慌てたように優しく撫でる。
そんな彼の動作一つ一つが、どうしても、好きだと思えてしまう。

「もしかしたら、その時に、何かあったのかもしれない。私の、せいでっ……」
「波音ちゃんのせいじゃないよ。それは、君だってわかってるだろ?」
「でもっ……!!」
「今から一週間なんて待ってられない。睡蓮を動かすよ」
「だけそ、睡蓮とはもう縁を切ったって」

 不安になって見上げると、凛は鋭い視線で前を見据えて言った。

「こう見えても、人望はあったほうなんだ。全員は無理でも、少しなら、動かせるさ」




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