「わあ、おいしい!」

 いちごのクリームが乗ったショートケーキを口いっぱいに頬張って笑う。
 それを凛はにこにこと見つめて、コーヒーをすすった。
 そういえばこの前佐藤さんの店に連れて行ってもらったときも、凛はコーヒーしか飲んでなかった。

「凛は何か頼まないの?」
「俺はいいよ。甘いもの好きじゃないんだ」

 驚いた。じゃあ、昨日から私のためにこういうスイーツのお店を探してくれてたってこと?

 心の中に変なもやもやが出てきて、それをごまかすようにむしゃむしゃとケーキを頬張る。

「波音ちゃん?」
「ん、ん、なんでもない」
「なんでもないって、そんなに食べると喉詰まらすよ」

 凛の言葉通り、こほっこほっと咳き込むと、凛が持っていたコーヒーを差し出してきた。

「言った通り。ほら、これ飲みな」
「あ、ありがとう」

 反射的に受け取ってから、それが凛の飲みかけだということに気づく。

 って、て、これって間接キスとかいうのじゃ……

「ひゃ、ひゃあっ」
「は、波音ちゃん?」

 思いっきりそれを突き返して、顔を隠す。

 ――やばい、私、今すっごく真っ赤になってる。

「波音ちゃん、どうしたの?」

 凛が訝しげに聞いてくる。
 こんな顔、見られたくない。
 なんでだろう。前キスされたときは、恥ずかしいと思うだけだったのに……
 ……わ、私、凛のこと、意識してる……?

「波音ちゃん?」
「あ、ううん、なんでもない」

 横に置いてあった水を手に取る。
 それを飲むと幾分落ち着いて、ほっと安心した。

「あ、ごめんね。コーヒー苦手だった?」

 申し訳なさそうに言う凛に微かに頷いた。

「う、うん、そうなの! 甘いのなら、飲めるんだけど……」

 なんとか誤魔化せたかなと思って、顔を上げると、凛はにやにやとしてこっちを見てた。

 な、なに……?

「どうしたの……?」
「ん、いや?」

 いやって、そんなに見られると、ものすごく恥ずかしいんですけど……

「そういえばっ。凛は睡蓮の総長なのに、戻らなくていいの?」

 このままじゃ、もう一回顔が赤くなってきそうだったので、話を変えてみた。
 凛は思ったよりもあっさりと頷いて、私のことから話題を逸らす。

「ああ、うん。こっちに来るときに、別の奴に任せてきたから、もう睡蓮とは縁を切ったんだよ」
「そうなの?」
「さすがにそうしないと、この学校が黙ってないからね。でも、さすがに全部切り離すことはできなくて、この前まで灰狼町にいってたんだけど、もう俺は総長じゃないよ」

 そっか。と頷いて、また水を含む。

 多分彼はまだ、姉さんのことがずっと忘れられなくて、その寂しさを埋めるために私と接しているのだとは思うのだけれど。

 まあ、それでもいいかなと、この時は不思議と思って、

 なぜだか、こうやって凛と一緒にいるということが、すごく幸せなことに感じられたんだ



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