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「――でもね、それからは、アイスも自分で買いに行くようになったんだよ。私が一人で外に出かける時もね、なんだかんだ理由をつけて、付いて、来て、くれたの……」

 話しながら、もう姉さんはいないという事実に泣いている私に、凛は優しく頷きながら静かに聞いていた。
 その姿が、姉さんと重なって、また涙する。

「ごめん、凛の方が、辛いのに」
「…………」

 凛は黙って下を向いている。

「凛は、どこか似てる」
「紗音と、俺が?」
「うん。いつもは優しいけど、いざというとき鋭くなる」

 涙でぬれた顔を上げる。
 それと同時に凛も顔を上げたらしく、彼の端正な顔が至近距離にあって、少し恥ずかしくなった。
 誤魔化すように、私は薄く微笑む。

「私、結構凛のこと好きかも」


 がたっ

 私がそういったとき、風のせいか、扉が揺れた。

「なんかお兄ちゃんみたい」

 微笑むと、凛も笑った。

「ありがとう。それは、恋愛感情じゃないの?」
「えぇ? 何言ってんの! 違うよ!」

 恋愛感情では、ない。
 ていうか、まだ姉さんを想っている凛に恋愛感情を抱いても、希望はないと思う。
 凛は眉を寄せた。

「そんなにはっきりと否定されると、男としても悔しいんだけ」
「ふふっ、そう?」

 口説き文句に、軽く受け流した私を、凛は首を傾げて見つめる。

「でも、波音ちゃんって結構男慣れしてるよね。外見に似合わず」

 伊達眼鏡や手入れしてないボサボサの髪を指して凛が言う。

「外見に似合わずは余計だよ。私も、中学の頃いろいろあったの」

 私はふいと顔を背けた。

「ふーん。伊達眼鏡は、紗音と似ていることを周りに気づかせないようにするため?」
「うん。そう」
「じゃあ、もう必要ないんじゃない? 俺は知ってるわけだし」

 凛の言葉に苦笑する。

「姉さんを探してるのは、凛だけじゃないんだよ」
「でも、紫蘭はもう代が変わってるでしょ?」
「うん。でも、姉さんには姫として以外の魅力もあった」

 私は影を落とした。

「多分まだ、探してる。学校内でも、今まで何人も、関係あるっぽい人を見かけたし。紫蘭の元総長、加藤凌空は」

 その名前を出した途端、凛の目が大きく見開かれた。


『絶対探し出すっ!!!』

 あの人の声が、聞こえた気がした。





「それで、なんで私は外に連れ出されてるの?」

 前を歩く凛に笑いながらついていく。

「昨日ここら辺を見てたら、いいお店があってね。波音ちゃんを連れてきたいと思ってたんだ」
「もう前見たいなことしないって約束するならいいよ」

 前のキスを思い出して顔を赤くしながら言うと凛は振り向いてにやっとして笑った。

「どうかなー、波音ちゃん可愛いし」
「もう、そんなこと言って。どうせ姉さんと重ねたんでしょ」

 冗談交じりに言うと、凛の足がふと、止まった。

「凛?」
「……君は、」
「え?」

 前を向きながら、呟くように言う凛の言葉が聞き取れなくて、近くによる。
 顔を覗き込むと、彼はたまらなく悲しそうな顔をして、驚いて声をかけた。

「え、どうしたの?」
「いや……、なんでもない、よ。ただ、俺は、君と紗音を重ねてない」
「あ、そ、そうなの」

 あまりにも真剣に言うから、ごめんとしどろもどろに頷いてしまう。
 その様子によしと呟いた凛は私の手を引いた。

「さあ行こう。自由時間がなくなるよ」



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