「波音ーー! 冷凍庫からアイスとってーっ!!」

 まだ春だというのに、姉さんはアイスが大好きで寝そべりながらアイスを食べていた。

「もう三本目じゃん。そんなに食べて寒くないの?」

 そんな姉に、呆れながら言う。
 こんなだらしない姿を、姉さんに心酔してる人たちが見ればどう思うだろうか。

「寒いけど……、それが癖になんの!」

 姉さんはのろまな私に痺れを切らし、自ら冷凍庫を開けて、絶叫した。

「ちょ、姉さんうるさいっ!!」
「アイスないじゃんっ!! 波音買ってきてよ!」
「なんで私が」
「昨日、残り少ない私のプリンを食べてたこと、知ってるんだからね?」
「げっ」

 仕方なく、近くのスーパーにアイスを買いに行く。
 姉さんのお気に入りのアイスを箱ごと買って、店を出た時だった。

 う、嫌な連中。

 出入口付近でたむろってるどっかの不良たちに、内心毒吐く。

 そちらを見ないように歩いたつもりだったが、私は運が悪いらしく、案の定絡まれた。

「あ、嬢ちゃんかわいいね、小学生?」
「いえ……」
「俺たち暇してんだ? 一緒に遊ぼーぜ」

 にやにやと絡んでくる不良たちにため息を吐く。
 制服は知らないところだから、対して危ない連中ではないんだろうけど。
 ていうか、誰か助けてよ。
 通り過ぎる人はひそひそと何かを囁きながら私たちに近づこうとしない。
 逃げようとしても、男の一人が腕を掴んでいる。

「そうだ、俺たち今ちょー喉が渇いてんだよねー」
「今からジュース買ってきてくれれば許してやってもいいよ」

 何もやってないのに、何が許すなのか。
 だけどそれだけなら、と思い聞いた。

「あの、私お金持ってないです……」
「あぁっ!?」
「だから、お金……」
「んなもんいらねーよっ!! 取ってこいっつってんの!」

 彼らの言っていることがわかって、私の顔がさーっと青ざめた。
 つまり、万引きして来い、ということだ。
 ぶんぶんと私は首を振ると、不良たちは顔色を一変させた。

「お前、ガキのくせして俺らの言うことが聞けねーのかよ!!」
「ち、ちが……」
「何が違ぇんだよっ!!」

 近くで怒鳴られ、怖さで手が震える。
 わかりました、と頷こうとしたとき、私たちの前に、ふわりと石鹸の匂いを纏わせた少女が立ち塞がった。

「……姉、さん」

 現れた姉さんは、私を掴んでいる男の腕を掴むと、鋭い眼力で彼らを睨みつけた。

「貴方たち、この子が私の妹だと知っててそんなこと言ってるの?」
「あ、あ? 誰だお前!」
「紫蘭の姫よ」

 叫び放った姉さんに、周りがざわめく。
 このときはまだ姫ではなかったけど、姉さんの美貌に男たちは簡単に信じた。

「し、紫蘭っ!?」
「ええ、私のバックには紫蘭が付いてる。そして、この子は私の妹。私の妹に、貴方たちは何をさせようとしていたのかしら」

 震えてる私を一瞥すると、姉さんは嘲るように言った。
 いつもは私以外には優しい笑みで対応してる姉さんがこんな表情をするときは、すごく怒っているときだ。
 男たちはひぃと情けない声を上げると、逃げて行った。
 くるりと、姉さんが私の方を向く。

「姉さ、」
「波音」

 優しい温かさが、私を包んだ。

「姉さんっ」

 怖くて、怖くて、泣いてしまった私を姉さんは優しく抱きしめた。
 柔らかい手が、頭を撫でる。

「馬鹿波音。よしよし」

 姉さんは、それ以上何も言わなかった。




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