10 - Hane's perspective -


「波音ちゃんって、日向君のこと好きなの?」

 修学旅行に来て、二日目の朝。
 一緒の部屋になった白石美沙ちゃんに話しかけられて、私はきょとんとした。

「ええっ!? 何、いきなり」
「だって、日向君が転校して来てからいっつも一緒にいるでしょ?」

 いつもおちゃらけた様子なのに、結構真面目な顔をしている美沙ちゃんに、うーんと首を傾げる。
 いつも一緒に、というわけではない。
 というか最初凛が近づいてきたのは、私が姉さんと関係していたからで。
 姉さんが死んでいたことを凛に教えてからは、クラスでも少し喋る程度である。

「多分、席が近いから一緒にいるように見えるだけだよ」
「そーかなぁ、日向君、波音ちゃんと話すときは比較的楽しそうだし、周りの女子達が嫉妬してるよ?」
「そんなことないって! 気のせいだよ」

 ぶんぶんと手を振る。
 でもなぁ、とまだぶつぶつ言っている美沙ちゃんに苦笑いして、逃げるように部屋を出た。

 確かに、私と話しているとき、凛は少し楽しそうな気がする。
 でも、それは私だから、じゃない。
 私が柏月紗音の妹で、雰囲気が少し似てるからだ。
 はあ、とため息を落とす。
 自分で思って、なんだか悲しくなった。

 昼まで自由時間で暇だったから、ホテルの中をぐるぐる泊まってみた。

「――あれ、凛?」

 食堂の近く、数人の男子と談笑してる長身のイケメンを発見する。
 やがて手を上げて彼らと別れ、入り口に立っている私に気づくと、駆け寄ってきた。

「凛、男の子とも仲良くなれるんだね」

 含み笑いをすると凛は少し呆れた顔をした。

「なれるよ。俺を何だと思ってるんだ」
「女の子しか口説けない色摩」

 ばっさりと言うと、凛はいよいよ顔を歪めた。

「なんじゃそりゃ。すごい言われようだな」

「でも、良かった。凛、転校生だから浮いてると思ったんだけど、そんなこともなかったんだね」

 凛はまあねと笑った。

「俺だってそれなりに高校生活を楽しみたいし。蒼一にいたころはチームのことや喧嘩のことやいろいろあって学生らしい生活はあんまりできなかったからね」
「留年したのは、授業日数が足りなかったから?」

 昨日のテスト、それなりに点数高かったはずだよね。

「授業日数も、学習面も。全然ボーダーに達してなかったよ。こっちに転校してきたときは死ぬほど勉強した」

 ――死ぬほど、か。

 そんなにしてまで、姉さんに、会いたかったのだろうか。
 姉さんのことを思い出して、泣きたくなってくると、その表情に気が付いたのか、凛も同じような顔をした。
 おもむろに、彼は口を開いた。

「良かったら、聞かせてくれないか」
「姉さんのこと?」

 頷く彼をじっと見る。

「もっと、知りたい。彼女のことを」

 いずれ聞かれると思っていたその彼の言葉に、私は深く目を瞑った。


「姉さんはね、昔っから、天使のような人だったよ」

 近くに会った長椅子にこしかけ、私はあの、懐かしい日々を思い出した。

「自分のことより他人のことを優先して、いっつもほわんほわん笑ってるの。でもね、それは表向きだけで、私には違うの。私にはちゃんとお姉ちゃん、するんだよ?」
「お姉ちゃん?」
「うん、私が中学上がりたてのこと、こんなことがあってね」




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