9 「では、肝試しをするので二人一組になってください」 急にそう言い放った教師の言葉に私は顔をしかめた。 テストが終わり、寝ようと意気込んだところをなぜか外に連れ出された私たちのクラス。 「は、はぁ!? なんで肝試しなんかするのよ!」 渡された日程表にはないことに苛立って教師に掴みかかる。 「ちょ、三日月さん……」 「あんた、教師だからって調子乗ってんじゃないでしょーね!?」 「待って待って、佳南、あんた何やってんのよ!」 美沙に引き剥がされても、教師を睨み続ける私にため息を吐く。 「須藤センセ。許してやってくださいね、この子お化けとかすっごい苦手なんですよ」 「は、はぁ!? 苦手じゃないし、大好きだし!」 「じゃあいいじゃない。大好きなお化けに会えるかもしれないんだよ?」 「あ、会える!? え、え、え!」 冗談じゃない! 青くなって、震え出すと、教師はあははと苦笑して、前を向いた。 「とりあえず、二人一組になってください。前のクラスがお化け役です」 二人一組って……、二人だけであんな恐ろしい生き物――見たことないけど、に対峙しろっていうの。 がたがたと震え出した私をにやにやとしながら見つめる凛と波音。 波音は私を面白そうに見ながら、声をかけようとする。 「ねえ、佳南。怖いなら私と一緒に、」 「おーっと、波音ちゃんは私と一緒だよ! 私、波音ちゃんともっと親交を深めたいしっ!!」 私を誘う波音に美沙が焦ったように腕を絡める。 波音はその様子に唖然としながらも頷いた。 「え、あ、うん!」 「じゃあそうと決まれば行こうっ!! ……佳南、上手くやるんだよ」 後半、耳元で私に囁き波音を引き連れて行ってしまった美沙を呆然と見る。 「じゃあ、必然的に俺は佳南ちゃんと組むことになるのかな?」 クスクスと私たちの様子を見て笑う凛がそう言う。 美沙の奴ぅ〜、図ったわね……。 むむむと唸っていると、凛が手を差し出してきた。 「……何よ」 「怖いんでしょ?」 見上げると、口をむずむずさせて笑いをこらえてる。 さっきまで爆笑してたのに、なんでこういうときだけそんな顔してんのよっ!! 完全にからかってる凛に、差し出された手をばちんと叩きどかどかと一人歩く。 「あ、佳南ちゃん待って」 後ろから凛の声が聞こえるけど、気にしない。 お化けとか幽霊とか、そんなのいないし。 怖くなんかないわよっ!! * 「きゃあああああああっっっ!!!」 さっきの威勢はどこへやら。 私はいままさにバサっと揺れた茂みに、大きな悲鳴を上げて凛に抱き着く。 「佳南ちゃ、」 「いやああっ!! 今、あっちの方に、か、影が……」 「あの、かな、」 「ああああっ!! なんか、なんか音したっ、今、がんってっ!!」 「佳南ちゃんっ!!」 「いやあああっ!! そ、そんな大きな声出さないでよぉっ!!」 珍しく大声で叫んで私の名前を呼んだ凛をどんっと押し返す。 すぐに、押してしまったことに気づき、はっとした。 「ああっ、ご、ごめん!!」 「いや、いいけど」 凛は目を細めた。 「少し怖がるなら俺も、可愛いなくらいでいいんだけど、さすがに隣でそんなに叫ばれると、」 「わあっ!!」 「ぎゃあああああああっ!! ってあんた隣のクラスの奴じゃない!! 脅かさないでよっ!!」 凛と話してる最中なのに割り込んできた女子生徒に怒鳴る。 女子生徒は逆に、ひぃっと縮こまると茂みの中へ逃げてった。 私のその様子を見て、凛はぷっと吹きだした。 「……何よ」 「いや、佳南ちゃんは、本当に面白い人だと思って」 「ば、馬鹿にしてんのっ!?」 「いーや、その逆」 凛の手が伸びて、私の肩を掴む。そのまま抱き寄せられると、彼は私の耳元で囁いた。 「ほら、こうしたら、怖くないでしょ」 男の人の体温をまじかに感じて、頬がだんだん赤くなる。 「な、に、言って、」 「さすがにこれ以上叫ばれたら俺の耳も持たないし」 そう言って苦笑する凛に少しがっかりする。 抱きしめたのは、私がうるさかったからか…… いや、何で落ち込んでんの私!? ぶんぶんとその考えを振り払うと、ぼんと顔を上げて言う。 「大丈夫、怖くない」 「え、でも、」 心配した表情の凛の腕をぎゅっとつかむ。 「……これで、いい」 腕を引いて歩き出した私に、凛がくすっと笑った。 |